スーツ姿でリングに上がる“戦うサラリーマン”新橋二郎が、ドラゴンゲートで異彩を放っている。昨年1月2日デビュー。お笑いゲート王座を拍手判定で奪取し話題を呼んだ。2月23日の福岡国際センター大会「UNO! DOS!! TRES!!! DRAGONGATE~龍の祭典~」では大鷲透に白旗を振って敗戦。それでもスーツを脱げば濃い胸毛をのぞかせる肉体派というギャップと、徹底したサラリーマンスタイルで博多っ子を熱狂させた。その原点と現在地を聞いた。

大鷲透(右)に締め上げられる新橋二郎
大鷲透(右)に締め上げられる新橋二郎

 スーツにネクタイ、手にはビジネスバッグ。入場すると観客席へ歩み寄り、一枚一枚名刺を手渡す。受け取った観客が思わず笑みを浮かべると、軽く会釈。リングに上がっても同じだ。ゴングが鳴ると、対戦相手にも差し出し、深々と一礼する。その所作はどこまでも丁寧で、営業マンそのもの。新橋二郎にとってリングは「商談の場」だ。試合は闘いではなく交渉であり、勝利は「契約成立」、敗戦は「商談不成立」となる。

「まだ契約が取れていないので、まずは一つでも多く商談を成功させることが目標です。サラリーマンたるもの、どんな状況でも結果を出さないといけない。数字は正直ですから」

 その姿勢は徹底している。試合中に電話が鳴れば迷わず応答する。受話器を耳に当てたまま攻撃を受けることもあるが、動じない。むしろ深々と頭を下げながら会話を続ける。

「大事な取引先からの連絡かもしれない。サラリーマンとして、それをないがしろにはできません。リングの上でも仕事は仕事です」

 2月23日の福岡大会では、大鷲透とのシングルマッチに臨んだ。入場マイクで会場を和ませ、傘を使ったゴルフスイングで攻撃するなど持ち味を発揮。だが試合中に取引先からの電話が鳴り、応対中に攻撃を受けると感情をあらわにして上着を脱ぎ応戦した。ネクタイを外し、営業マンの装いから闘志をむき出しにする姿へと変わる。客席からは「全裸になれー!」の声も飛ぶ中、最後は6分45秒、ビジネスバッグから白旗を取り出して戦意喪失負けを喫した。

「結果は自分の力不足。ただ商談は一度で終わるものではありません。失敗から学び、次につなげる。それが営業だと思っています」

 敗戦をも営業論で語る。その姿はコミカルでありながら、どこか真剣だ。勝率はまだ0%。契約成立もゼロ。それでも前を向く。

「数字だけを見れば厳しいですが、経験値は確実に上がっている。クレーム対応も営業のうちですし、失敗の数だけ強くなれると信じています。いつか必ず成果を出します」

 こうした揺るがぬ姿勢の根底には、出身の出雲市での少年時代がある。

「土地が広くて、毎日外で遊んでいました。野球もやっていて、とにかく走り回っていた。あの頃に体力も根性も鍛えられたと思います。今の粘り強さは、あの時の積み重ねかもしれません」

 幼い頃、父親の影響でテレビ越しに見たプロレスに衝撃を受けた。

「すごく引き込まれました。画面の向こうの世界が別次元に見えた。自分もあのリングに立ちたいと自然に思ったんです」

 特に心を奪われたのがドラゴン・キッドの動きだった。軽快でスピーディーな攻防に目を見張ったという。そして成長するにつれ、オカダ・カズチカの存在感に圧倒された。

「たくさんの選手がいる中で、オカダさんが一番光って見えた。圧倒的なオーラがありました。ああいう存在感を持てるレスラーになりたい」

 憧れはやがて明確な目標へと変わる。リングに立ちたい。その思いが、現在の“戦うサラリーマン”につながった。デビュー戦では試合自体には敗れながらも、拍手判定で「オープン・ザ・お笑いゲート」王座を獲得。

「まさか自分がチャンピオンになれるとは思っていなかった。驚きと感謝しかありません。ただ、あの瞬間で満足してはいけないとも思いました」

 その後、ベルトは手放したが、観客の支持を受けて立った王座経験は確かな自信になっている。海外のプロレスサイトで取り上げられたことも追い風だ。

「海外の方にまで見ていただけるとは思っていなかった。本当にうれしい。言葉が通じなくても伝わるものがあるのは励みになります。もっと成長した姿を見せたい」

笑顔で名刺を差し出す新橋二郎
笑顔で名刺を差し出す新橋二郎

 東スポプロレス大賞新人賞に1票入ったことも大きな刺激になった。

「デビューして間もない自分がノミネートされるとは思っていなかった。1票でも評価してもらえたことがうれしい。もっと票が入る選手になりたい」

 リング外では「杉原商事の課長」という肩書を持つ。将来の夢は明快だ。

「マイホームを建てること。そして昇進して、ゆくゆくは社長を目指すこと」

 それは単なる設定ではなく、人生設計でもある。

「全国のサラリーマンの方々を少しでも勇気づけられたら。サラリーマンでもここまでやれるんだという姿を見せたい。仕事もプロレスも、どちらも本気でやる。それが自分のスタイルです」

 敗れても白旗を振っても、商談は終わらない。数字がゼロでも、志はゼロではない。リングという名の“会議室”で、新橋二郎は今日もネクタイを締め直し、次の「契約成立」へ向けて歩みを止めない。

自慢の胸毛を見せる新橋二郎
自慢の胸毛を見せる新橋二郎