【赤ペン!】長嶋茂雄さんが第2次巨人監督時代の晩年、ピュリツァー賞作家の著書を愛読していたことは、あまり知られていない。
「これはいい本ですよ。すごく勉強になります」と、周囲の親しい関係者に紹介していたその本とはジョージ・F・ウィルの「野球術」である。
ウィルは米国人で保守派の作家兼政治評論家。ワシントン・ポスト紙にコラムを持ち、大変影響力の強い論客として知られる。1977年、有力メディアの解説記事を評価され、ピュリツァー賞を授与された。
元来はレーガン政権を支持する共和党員だったが、トランプ大統領とは意見が対立。民主党支持に回り「現在の共和党はカルトになった」と手厳しく批判している。
そんなウィルは熱狂的な野球ファンでもあり、91年に「野球術」を発表。たちまち大ベストセラーとなって、スポーツノンフィクションの金字塔と言われて高く評価された(邦訳は97年に出版)。
本書の構成は野球人4人に綿密なインタビューをした4章立て。「監督術」が名将トニー・ラルーサ、「投球術」がサイ・ヤング賞投手オーレル・ハーシュハイザー、「打撃術」が首位打者8回のトニー・グウィン、「守備術」が世界最多2632試合連続出場のカル・リプケン・ジュニアだ。
この「野球術」は野村克也氏もヤクルト、阪神、楽天の監督時代に熟読。選手たちに教科書として与えた「ノムラの考え」を著すに当たり、参考にしたとも言われている。野村監督といえば頭脳と情報を駆使した「ID野球」で知られる。一方、長嶋さんの采配は凡人には思いつかないヒラメキと大胆さで「勘ピューター野球」などと呼ばれた。
そんな2人が、同じ米国人作家の名著を愛読書にしていたという事実は興味深い。データには見向きもしないと思われていた長嶋さんだが、実は試合前、東京ドームの監督室にこもり、スコアラーが届けたチャート表をチェックしていた。
当時の球団幹部によると、自分で約1か月先まで先発投手をリストアップしたローテーション表も作成。大きな紙に投手の名前を自筆で記入し、シーズンの中長期構想を練っていたそうだ。そうしたところにも「野球術」の影響がうかがえる。
ちなみに、イチロー氏もオリックスからマリナーズに移籍する際、この名著を読んで感銘を受けたという。長嶋、野村、イチローと希代の名選手をつなぐ一冊の野球本、ファンなら一度手に取ってみてはどうだろうか。













