【昭和~平成スター列伝】昨年2月に引退した武藤敬司の化身である“魔界の住人”グレート・ムタは、WWEの中邑真輔との奇跡の異次元マッチ(ノア1月1日、日本武道館)で東京スポーツ新聞社制定「プロレス大賞」ベストバウトを獲得して有終の美を飾った。先週はムタ初のIWGPヘビー級王座奪取について触れたが「化身」とまではいかなくても、海外の大物レスラーは、時として正体バレバレのマスクマンに変身している。
最も有名なのは“大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアントのジャイアント・マシーン、“超人”ハルク・ホーガンのミスター・アメリカだろうか。他にも多くの正体バレバレのマスクマンが存在するが、短期間ながら意外な超大物が覆面レスラーに変身している。あの“超獣”ことブルーザー・ブロディである。
ブロディは1970年代からWWWF(現WWE)、全日本プロレス、新日本プロレスでトップ選手として活躍したが、度重なる契約トラブルを起こし、86年11月には試合をボイコットして新日本との契約を解除された。その後は米国マットに戦場を移し、87年には古巣のテキサス州ダラスに戻る。ブロディをスカウトしてくれた恩人“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリックのお膝元である。
ここでブロディは短期間ながら「レッドリバー・ジャック」なるマスクマンに変身。エリック一家の大物助っ人となった。1987年2月21日付本紙では、謎の覆面男の正体を追跡している。
『ダラスマットで超大物のマスクマンが大暴れしている。198センチ135キロの巨体を生かしたキック、ギロチンドロップ、ニードロップを駆使して圧巻の強さで敵なしの状態だ。ジャックは「ブロディの従兄」と名乗っているが、目の肥えたダラスのファンの目はごまかせない。声援は「ブルーザー! ブルーザー!」で統一されている。ズバリ、ダラスのファンは知っていた。その正体はブルーザー・ブロディだったのだ。なぜブロディがマスクマンに変身する必要があったのか。かつてのレスリング王国ダラスもジリ貧状態。若きリーダー、ケリー・フォン・エリックも復帰したが完璧にはほど遠い。次代のスター候補、ディンゴ・ウォリアーはテキサスヘビー級王座を獲得したが、あくまで次代のスターだ。ブロディがマスクマンになったのはディンゴを育て、低迷ダラスにカツを入れるための苦肉の策だったわけだ。素顔ならメインイベンターだが若手は育たない。あえて超スターにマスクをかぶせたのだ』(抜粋)
素顔はインテリで気難しいことで知られた超獣だが、マスクマンに変身する遊び心があったのは驚きであり発見である。
結局、ブロディは短期間でマスクを脱ぎ、同年10月「ジャイアント・シリーズ」から全日本に復帰。暮れの祭典「世界最強タッグ決定リーグ戦」にも参戦した。最後の来日となった88年には3月27日、日本武道館でジャンボ鶴田からインターナショナルヘビー級王座を奪還して歓喜の雄叫びを上げた。
しかし同年7月17日にプエルトリコでホセ・ゴンザレスに刺され、不慮の死を遂げる。ダラスで謎のマスクマンに変身していた期間は、ブロディにとって最後の「平和な時間」だったのかもしれない。 (敬称略)













