松坂大輔投手は平成16(2004)年のアテネ五輪、06年の第1回WBC、そして09年の第2回WBCでキューバ戦に登板し、無傷の3連勝を飾っている。

松坂の球にキューバのバットがくるくると回った(2009年)
松坂の球にキューバのバットがくるくると回った(2009年)

 その中でも圧巻だったのが09年の投球だ。これはのちに「逆球作戦」と語り継がれる離れ業。国際大会経験豊富であり、海外野球事情に精通した松坂と城島健司のMLBバッテリーならではの頭脳戦略だった。

 09年3月15日、サンディエゴ・ペトコパークで行われた2次ラウンド1回戦だ。日本で開催された1次ラウンドとは違いこれが海外初戦。アリゾナ合宿でカブス、ジャイアンツと練習試合は行ってきたものの本番は空気が違った。

〝世界最強〟の名をほしいままにしてきたキューバとの対戦。しかも先発は160キロ左腕と騒がれたチャプマン(のちにヤンキース)となれば注目度も緊張感も高まった。

 だが、代表唯一のMLB投手であり、日本人初のワールドシリーズ先発経験者。その時点でメジャー33勝を挙げていた松坂が格の違いを見せつけた。

 6回を投げ5安打無失点で8奪三振。そのうち5個は見逃しであり、3回は3者連続見逃し三振という内容だった。虚をつかれたように固まるキューバ打線。意外に思えたが、これにはしっかり理由があった。

イチローとタッチする松坂大輔(2009年)
イチローとタッチする松坂大輔(2009年)

 現地で借りた米国仕様のガラケーで交わした会話内容は今でも覚えている。球場会見での日本語通訳がたまらなくたどたどしく、笑いをこらえるのに必死だったことなどを振り返りつつ本題に。

 逆球が多かったように見えたが、結果的にキューバ打線に的を絞らせなかったように思えた。そう質問を振ると、自信たっぷりな言葉が返ってきた。

「また、僕のコントロールが悪いとか思ってたんでしょ(笑い)。いや、あれはワザとなんです。アテネ(04年五輪)の時もそうだったんですけどね。こっちが言葉が分かってないと思ってキャッチャーの構えてる位置とか、思い切り伝達してくるんですよ。だから、城島さんも僕ももうこっち(MLB)で慣れててスペイン語も分かりますから。それじゃ逆に構えて投げてやろうとなったんです。試合中に話し合って決めました」

内野ゴロを処理した中島に笑顔の岩隈久志(2009年)
内野ゴロを処理した中島に笑顔の岩隈久志(2009年)

 最初はうるさいくらいに声を出していたキューバベンチが、松坂の圧巻投球に沈黙させられた。後を受けた岩隈久志、馬原孝浩、藤川球児も無失点でつなぎ、完封リレーを完成させた。強敵相手につかみ取った6―0の勝利は侍ジャパンを勢いづけた。

力投する藤川球児(2009年)
力投する藤川球児(2009年)

 松坂は22日の米国戦にも先発し、5回2失点で勝ち投手に。大会3勝が評価され、WBC2大会連続のMVPに選出された。甲子園春夏、神宮大会、日本シリーズ、ワールドシリーズ、WBCを制覇。ここまで勝利の女神を溺愛させた男を彼以外に見たことがない。

優勝トロフィーを掲げる松坂大輔(2009年)
優勝トロフィーを掲げる松坂大輔(2009年)