【赤坂英一 赤ペン!!】広島・大瀬良大地投手(29)の開幕戦の投球は圧巻だった。DeNA・今永とのエース対決を完投で制し、自ら同点タイムリーにプロ初本塁打まで放ったひとり舞台。随分たくましくなった彼を見ていて、ちょうど去年の今ごろ、投手コーチだった佐々岡真司現監督(52)から聞いた話を思い出した。


 そのころの大瀬良は調子を崩して連敗中。そこで、試合中に佐々岡コーチがこんな助言をしていた。


「150キロ以上出ていても打たれる時は、打者に見やすくなってるんじゃないかとか。僅差で試合終盤に入ったら、もう1イニング、ギアを上げていこう、そうすれば流れが来るとか。折に触れてそういう話をしました。細かいことを長々と話すんじゃなく、ポイント、ポイントでひと言、ふた言。大地ならそれで理解してくれるだろうと思って」


 そう語った佐々岡監督自身、エースだった現役時代は「コーチに長話をされるのが苦手で、そっとしておいてほしかったタイプだった」そうだ。時代は違えど、エースの王道を歩んでいる者同士だからこそ、言葉よりも以心伝心で通じ合う何かがあるのかもしれない。


 そんな佐々岡監督が、昨年から大瀬良に求めているのが完投。「たとえ完投までできなくとも、1イニングでも長く、1球でも多く投げてもらいたい。それがリリーフ陣のためにもなるから」だ。


「僕は現役時代の晩年、中抑え(佐々岡監督は中継ぎをこう表現する)に回ったでしょう。当時、黒田が先発すると、よく完投してくれたし、試合の終盤まで粘って投げてくれた。ああ、今日はいつもより楽ができる、ゆっくり準備すればいいと思ったものです。大地も、そういう信頼される存在になってほしい」


 そう語った佐々岡監督は今季、かつては中継ぎや抑えで活躍した中崎や今村をリードされた場面で投入している。開幕2戦目のDeNA戦では、2点差をつけられた場面でマウンドへ送った。


「ビハインドでも経験のある投手が投げてくれると心強い。中崎は四球でピンチもつくったが、その後をしっかりと抑えた。あれが(逆転勝ちへの)流れを呼んだね。調子が上がってくれば、もっといいところで投げさせることも考えています」
 一方で、開幕3戦目で炎上した新守護神のスコット、四球で自滅したK・ジョンソンなど、課題も続出している。今後の佐々岡監督の投手起用に要注目だ。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」「プロ野球第二の人生」(講談社)などノンフィクション作品電子書籍版が好評発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。日本文藝家協会会員。