ついにメジャーの本丸まで踏み込んだ「ロボット審判」は、誤審を減らす切り札である一方、球界の別の火種もあぶり出しているようだ。米有力紙「ニューヨーク・タイムズ」傘下のスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」は、今季から本格導入されたABS(自動ボール・ストライク判定システム)を巡り、元MLB審判員たちの反発と戸惑いを詳報。焦点は単なる機械化への拒否反応ではない。元審判たちが問題視しているのは「ストライクゾーンそのものが、もう人間の感覚だけでは追いつけない領域に入りつつある」という点だ。
現行のABSは、打者ごとに計測した身長を基に上限を53・5%、下限を27%で設定し、ボールが本塁上の中央を通過した位置で判定する。各球団は2度のチャレンジ権を持ち、打者、捕手、投手だけが即時に異議を申し立てられる仕組みだ。MLBは数年の試験運用を経て今季から本格的に導入し、レギュラーシーズンでの各球団開催試合とポストシーズンでも採用。さらに開幕直後の判定精度は93・5%で、前年から0・9ポイント改善したと説明している。
それでも、元審判たちの不満は消えない。記事では元審判のジョー・ウェスト氏やジム・ジョイス氏らが「ゾーンが変わった」「本当にその精度が証明されているのか」と懐疑的な声を上げた。審判に求められるのは、かつての〝だいたい合っている〟ではなくミリ単位の正確さだ。しかも判定が覆れば、その瞬間に球場の大型ビジョンと中継映像で〝公開査定〟される。開幕直後にはC・B・バックナー球審の判定が1試合で6度覆されるケースも起き、審判がさらし台に乗せられる構図さえ生まれた。
もっとも、技術の流れはもう止まらない。2010年6月2日(日本時間同3日)の本拠地インディアンス(現ガーディアンズ)戦でタイガース先発のアーマンド・ガララーガ投手が達成寸前だった完全試合を自らの誤審によって幻にしてしまった苦い過去を持つジョイス氏でさえ、同記事では最終的に「一度ここまで発展を遂げた技術は消えない」と認めている。
ABSが奪うのは〝審判の威厳〟か、それとも〝人間の曖昧さ〟か。MLBは今、ストライク判定を巡る最後の聖域にメスを入れた。野球は確実に、後戻りできない〝究極の機械化〟という場所へ進み始めている。












