初のWBC決勝進出に沸くベネズエラの熱狂の裏で、一人の左腕が激しい逆風にさらされている。フィラデルフィアの地元有力紙「フィラデルフィア・インクワイアラー」は17日(日本時間18日)、フィリーズのヘスス・ルサルド投手(28)がベネズエラ代表からの追加招集を辞退し、母国系ファンから厳しい批判を浴びている実情を報じた。

 ベネズエラは16日(同17日)の準決勝でイタリアを4―2で下し、初の決勝進出を決めている。ルサルドはペルー生まれで、MLB史上初のペルー出身選手として知られる一方、家族のルーツを持つベネズエラ代表として前回23年大会にも出場。今大会もリザーブ登録されていたものの決勝での登板要請を断り、フィリーズのキャンプ残留を選んだ。前出のフィラデルフィア・インクワイアラー紙によれば、ルサルド本人は「その場に立ち会えないことが胸が張り裂けるほど悲しい」と本音を打ち明けながらも、SNS上では「なぜ助けてくれない」と非難が噴出し、家族まで否定的な目で見られていることに苦しんでいるという。

 もっとも、事情は単純ではない。ルサルドは昨季フィリーズで15勝7敗、防御率3・92、216奪三振をマークし、ナ・リーグのサイ・ヤング賞投票でも上位の7位に食い込んだ。昨季は183回2/3を投げる自己最高水準のシーズンを送り、球団も今月に入って5年総額1億3500万ドル(役214億800万円)規模の大型契約で慰留。しかもフィリーズはエース右腕ザック・ウィーラー投手(35)の離脱を抱え、開幕ローテでルサルドにかかる比重は一段と重い。球団と本人が「今はWBCよりシーズン優先」と判断したのは、むしろ自然な流れでもある。

 それでも、国を背負う大会の熱は理屈だけでは割り切れない。決勝進出という歴史的高揚の中で、招集を断った左腕に「裏切り者」のレッテルが貼られる構図はWBCが単なるイベントではなく、国籍、血縁、誇りまで揺さぶる舞台であることを改めて物語る。

 ルサルドは「次回のWBCでもう一度考慮してもらえれば」と再参加への意欲も口にしたという。歓喜のベネズエラの足元で、もう一つの代表ドラマが静かに傷を残している。