「ケンタが追い続けてきた選手なら、ウチは争奪戦から降りる」――。ソフトバンクは今冬、U18キューバ代表主将のジョナサン・モレノ内野手(18)を育成契約で獲得した。高い守備力を誇る遊撃手は、メジャー30球団が獲得に興味を示したとされる世界的有望株。なぜ、ソフトバンクは争奪戦を制することができたのか。

 冒頭の言葉は、あるナ・リーグ強豪球団の担当スカウトの弁だ。「ケンタ」とは、2014年からソフトバンクで中南米地区のスカウティングを担当する萩原健太氏(45)。新外国人選手獲得に関わるオペレーションを指揮する松本裕一編成育成本部国際部部長は、内幕をこう明かした。「ウチよりもはるかに好条件を提示したメジャー球団は間違いなくあったと思います。実際に国際大会を視察に行った時も、メジャースカウトたちがモレノを目当てに来ていましたから。どのスカウトもその逸材ぶりにほれ込み、高く評価していました。それでもモレノがホークスを選んでくれたのは、健太の存在があったからだと思っています」

 MLB球団が中南米の逸材に投じる先行投資の額は圧倒的だ。キューバ出身の有望株を獲得する際は一家そろって「亡命」するケースが多く、家族の生活のためにアメリカンドリームを夢見る少年たちをNPB球団が振り向かせるのは至難だ。萩原スカウトは独自の情報網を駆使して誰よりも早く逸材を発掘し、足しげくキューバに通い続けて信頼を重ねていくスタイル。そうやって、ライバル球団が争奪戦のスタートラインに立つことすら敬遠するコネクションを築いてきた。

 キューバ選手獲得の際、たびたびささやかれる問題として〝亡命リスク〟がある。球団は、技量以外の「人間性」の部分で獲得を目指す選手がどんな選手なのかを見極める必要がある。目がくらむほどの高額な数字が並ぶ中で、最後は「人」を見てキャリアを選択したモレノ。その冷静な判断は、どんな時も甘い誘惑に負けない強い意志をうかがわせる。

 今季MVPを獲得したモイネロを発掘し、今も強い絆で結ばれている萩原スカウト。恩を忘れず「ケンタのためにもっと頑張る」と腕を振り続けるモイネロの生きざまに、新星・モレノはきっと魅せられるはずだ。