オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第254回は「着流しさん」だ。

 生息している地域ははっきりしない。とにかく、和服姿で着流しの状態で道に立っている。遠方でしか確認ができないので、目鼻や顔つきははっきり見えない。流暢に三味線を操り、男か女か分からない甲高い声で歌を歌う。そして、その声は流暢すぎて何を言っているのか聞き取れない。

 そのまま目撃者が呆然と見ていると、いつの間にか消えてしまう。また人間に対しては、特に悪い事は仕掛けない。人々はこの妖怪を「着流しさん」と呼んだ。

 生きている時に、歌と三味線に特別な思いを持っていたのだろう。とにかく音楽好きの妖怪である。

 音楽に造詣の深い妖怪といえば、「三味長老(しゃみちょうろう)」を思い出してしまう。この妖怪は、鳥山石燕(とりやま・せきえん)によって、妖怪画集の「百鬼徒然袋」で表現された妖怪であり、古くなった三味線が打ち捨てられ、その怨念が妖怪化したものだと考えられている。

 また、歌を流暢に歌う妖怪といえば、鹿児島の甑島(こしきしま)で伝わる「歌い骸骨」が思い出される。これは、友人に殺されてしまった骸骨が歌を披露し、「金儲けになる」と踏んだ友人が、有力者の前で演奏しようとすると、一言もしゃべらないという罠を仕掛けてくる。結局、友人は処罰されてしまう。こうして歌い骸骨は、復讐を達成するという話である。
 なお、妖怪に関する歌といえば、NHKの「おかあさんといっしょ」で放映され、大反響を呼んだ曲がある。「妖怪しりとり」がその曲である。妖怪博士と妖怪が妖怪の名称でしりとりを続けて、勝敗をつけるという曲で、妖怪研究家としてはなかなか燃える歌であった。