漢字で「海象」と書くのはセイウチ。また、ゾウアザラシはゾウのように大きく特徴的な鼻を持つため、この名前で呼ばれる。
他にも長い鼻を持つ動物は多く存在するが大概、上顎部と一体化していることが多く、ゾウのように鼻のみが長く発達している事例は少ない。
また、鼻の長い生物もそのほとんどが陸上生物である。
海中であれば、ゾウのように長い鼻は水圧に耐えることができず、呼吸しにくくなってしまうであろうし、冷たい海水中では壊死してしまうことも考えられる。
しかし、そんな生物学上あり得ない身体的特徴を持つUMAが存在した。
その名は「トランコ」。1920年代に南アフリカで初めて目撃された謎の海棲生物である。
当時、南アフリカの海岸にいた海水浴客が、2頭のシャチが謎の巨大生物と格闘しているところを目撃。その生物はかなりの巨体で全身が白く、攻撃してくるシャチに向かって長い鼻らしき器官を何度も振り下ろしていたという。
一説によれば、3頭の生物の戦いは3時間にも及んだとされている。そして後日、近隣の海岸にくだんの生物らしき巨大な死体が打ち上げられた。
死体の大きさは全長15メートルほど、鼻のような器官の長さは1・5メートル、直径30センチ。アザラシに似た大きなヒレがあり、尾はロブスターに似た形状で3メートルほどだった。
巨大な全身は白い毛で覆われており、毛の長さは20センチほどとかなり長かったようだ。
また、奇妙なことに全身から血液が抜き取られた状態で漂着していたという。
目撃証言や死体でも特に目立っていた部分が「象に似た長い鼻」だったため、象の鼻を意味する「トランク(trunk)」から、この生物は「トランコ(trunko)」と名付けられた。
しかし、このトランコの死体があまりにも不気味だったためか、公式な調査はなされず、漂着したままの状態で10日ほど放置され、最終的には波にさらわれて消えてしまったという。
今のところ、トランコが姿を見せたのは後にも先にもこの一件のみである。
このように、非常に特異な外見を持つトランコの正体は何だったのだろうか。
96年、隠棲動物学者カール・シューカーが「トランコの死体とされるものは単なるグロブスターである」という説を立てた。クジラなどの大型生物の死骸から脂肪の塊が分離すると、波にさらわれていくうちに表面の繊維が毛のように見える状態になって漂着することがあるという。
しかし、正体がグロブスター(海岸に漂着する謎の肉塊)だとすると、多くの人物が目撃したトランコの生きている姿との説明がつかない。
シャチがグロブスターに体当りして遊んでいるところを誤認したのだとする説もあるが、シャチは必要のない狩りや戦闘は極力避ける習性があるため、全く動かない脂肪の塊でシャチが遊ぶとは考えづらい。
ということは、やはりトランコは全く未知の巨大哺乳類だったのではないだろうか。
実は、南アフリカから遠く離れたインドでも“象のような鼻を持つ巨大な魚(海棲生物)”「マカラ」ないしは「シー・エレファント」と呼ばれるUMAが報告されているのである。
もしかしたら、トランコはこのインドで目撃されたUMAと同一種なのかもしれない。
また、普段は陸地で生活していたトランコがたまたま海に出た際にシャチに襲われたため、海棲哺乳類であると誤認された可能性も考えられる。
一方で、生きているトランコの姿は1920年代に目撃されたものと大きくかけ離れているのではないか、とする説もある。トランコの象の鼻のような器官は鼻ではなく別の器官、例えばシャチの襲撃によって口から臓器が飛び出ていたのを誤認したのではないか、とする説だ。目撃された後の死骸の写真などから、既に腐敗が進行していたとみられるために考えだされたものだ。
果たして、トランコの正体は何だったのだろうか。あと10年もすればトランコが目撃されて100周年を迎える。それまでにもう一度、姿を現してくれる日が来るだろうか。












