【山口敏太郎オカルト評論家のUMA図鑑#604】北米のごく一部の限られた部族に見られる「ウェンディゴ症候群」と呼ばれる精神疾患がある。食料が乏しくなる時期のビタミン不足が主な原因ではないかと考えられているが、その最大の特徴は食人衝動や食人願望を伴うという症状にある。
この疾患の名称は、実は北米の先住民に伝わる怪物「ウェンディゴ」が由来となっている。この疾患にかかった人間は「自分がウェンディゴになってしまうのではないか」という強い恐怖と不安を抱きながら、周囲の人々を食らいたいと思うようになってしまうのだという。
では、名前の由来にもなっているウェンディゴとは、そもそも何なのか。その大きさは、通常の人間サイズのものから約4・5メートルに達することもあるとされ、灰色の肌にくぼんだ目、血まみれの唇に黄色い牙、そして長い舌を持つという。
その体は、まるで骸骨のように細く、動く死体に似ているとも言われている。地域によっては「ウィンディゴ」「ウィチゴ」などとも呼ばれており、それらは「飢えた鬼」「人食いの悪魔」といった意味を持っているとのこと。その名のとおり、飢えをしのぐために人間を襲ってその肉を食らうというのだ。
イラストで描かれる際は、人間のように見える巨人や毛むくじゃらの獣人といった姿のほか、頭部がツノのあるシカのように描かれる人間とのハイブリッドを施したようなバージョンも多く見られる。
神話上の架空の生き物が現代において目撃されるといった報告はいくつもあるが、ウェンディゴも例外ではない。例えば、19世紀末には、カナダ西部で、顔が獣の骸骨のような細身の何者かを森で見かけたという報告が、猟師たちからなされたと言われている。20世紀に入ってからも、北米の辺境地を調査していたある探検家が、夜に奇妙な鳴き声を聞き、翌朝その地点から大きな足跡を発見したと記録しているという。
そのイメージからもお分かりのとおり、あまりにも不気味な存在であるウェンディゴ。その風貌から、アニメやゲームでも多数キャラクター化される人気の怪物の一つにもなっている。しかし、当然ながら実在しているか否かについては疑わしいと言わざるを得ず、目撃情報の多くもシカなどの動物の誤認ではないかとされている。
ウェンディゴ神話で注目すべきは「極限の飢えで人の肉を食う」という部分にある。極限の飢餓は人間にとって非常に大きな恐怖であり、人間の肉を食すことは最大級のタブーである。この設定は、人間の根源的な恐怖感を備えているのだ。
実は、この最悪のタブーを侵してしまった者はウェンディゴになってしまう、という伝承もあるという。このことから、ウェンディゴは人間としての禁を犯してはならないという、教訓的な存在として形成された怪物ではないかと考えられないだろうか。












