【山口敏太郎オカルト評論家のUMA図鑑#568】南アジアの国スリランカの南東部にあるヤーラ国立公園は、国内で2番目に大きく、かつ最も訪問者の多い国立公園である。世界有数のヒョウの生息地として知られているほか、周辺には3か所の野生動物保護区も存在しており、貴重な特有種の鳥類が生息している重要な地ともなっている。

 その国立公園にまつわる奇妙な話が取り沙汰されたのは2024年3月24日、フェイスブックでとある画像が数枚共有されたことに始まる。その投稿には、シンハラ語で「絶滅したと考えられていたチキビラが、ヤーラ国立公園で103年ぶりに発見された」と記されていたのだ。

 問題の画像に映し出されているのは、森の中を横切る、むき出しの肌をした細身で四足歩行の謎めいた生物であり、その胴体の背部と腹部にはトゲのようにも見える鋭い毛のようなものが備わっている。体長は2メートルを超えようかと思えるほどに大きく見え、鋭い牙も確認できる。

 あえて例えれば、馬のようなサイズになったチュパカブラと言っても良いだろうか。この不気味な画像の投稿は大きく拡散されることとなり、「死ぬほど怖い」「ほかにも何体か隠れているのだろうか」などの多くのコメントが寄せられた。

 チキビラは、投稿されたキャプションの説明によれば100年以上前に絶滅した生物であるということであるが、これ以上の詳細な情報は全くといっていいほど見られない。

 それどころか、国立公園の広報担当者によれば、このような生物が目撃されたという報告は現実に一切なされていないというのだ。同国のラジャラタ大学で動物学講師を務めるカニシュカ・ウクウェラ氏も「スリランカにはチキビラという動物はいない、そもそも世界のどこにもいないだろう」と語っており、環境学者ルチラ・ソマウィーラ氏に至っては、でっち上げであると一蹴するほどであった。

 つまるところ、チキビラは現地スリランカの伝承や神話にすら登場していない全く架空の生物であるということである。また、チキビラを捉えたかのような画像はコンピュータで作成されたものであることが今ではほぼ確定している。現在、出どころになったと思われる投稿は既に削除されているようだが、そのページの説明には「AI支援 SF/ホラー」との記載がなされて公開されていたとのことから、アートとして創作されたものであった可能性も高いだろう。

 このいわゆるチキビラ事件は、たびたび横行し拡散されるフェイク画像の実例の一つとして各種メディアが取り上げている。だが、もともと発表した人物がだます意図をもって発表したものであるのか、作品として公開されたものを第三者が本物と思ってしまったことで広まったのかについては不明なままだ。

 いずれにせよ、現代の画像技術が真偽を見分けることをますます困難にしているという現状を、強く実感させるケースの一つになったことは確かだろう。

 比較的近年になって報告されるようになったUMAは、南極の「ニンゲン」のように主にネットの伝聞を通じてその設定が拡大していくというような経過が見られる。その点で言えば、チキビラはフォークロアもまともに生まれないまま、あっという間に終息してしまったことがなんとも惜しく思えてくる。