オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第252回は「壁の口」だ。

 夜に現れる妖怪である。壁の中に口だけが生えている。その口はパクパクと開いて、いろんなものを飲み込んでしまう。特にそれ以外、悪いことはしない。口の形は、菱形をしていて、あまり大きくはない。何らかの恨みが妖怪化したのであろうか? それとも、口だけが幽霊化する現象があったのであろうか。

 このように、壁の中に人間のパーツが出現するという特異な幽霊現象は、他でも筆者は報告を受けている。

 かつて、滋賀県八日市で妖怪の聞き取り調査を行ったことがある。この時、ある老人から聞いた話によると、ある壁に「人間の手の幽霊」が出没したことがあった。周囲の人々は、恐れおののいたが、どうやら壁の修理に使われた土が墓場の土であったらしく、そこに埋葬されていた人間の腕に該当する部分の灰が混入しており、そのため人間の手の幽霊が出没したのではないかと言われた。

 現代妖怪で言えば、口をモチーフとした妖怪は他にも存在する。「夜の口」というのが一番に連想される。これは夜に出現する口であり、夜歩く人間を飲み込んでしまうとされる。

 他にも、伝承妖怪にも口に関連した妖怪が見られる。例えば、「鬼一口」が有名である。この妖怪は巨大すぎて口しか分からない。その口で人間を飲み込んでしまうという。

 また、後頭部にもう一つの口を持つ女妖怪「二口女」が連想される。この妖怪は「山姥」と性質が似通っている部分がある。食わず女房伝説が露骨にそれを表している。あるケチな男が飯を食わない女房を欲しがる。すると理想どおりの女が見つかる。だが、女は山姥=二口女であったのだ。夫が不在中にもう一つの口で飯を大量に食べていたのだ。