【プロレス蔵出し写真館】プロレス界でかねて〝セメント最強説〟が取り沙汰されているのが〝まだら狼〟〝金狼〟と呼ばれた上田馬之助だ。

 上田が2011年12月に亡くなった翌年8月に、加筆・修正を加えた「金狼の遺言 ―完全版―」(辰巳出版)が上田馬之助とトシ倉森さんの共著で上梓。連載の冒頭から、日本プロレスでのアントニオ猪木のクーデター未遂事件(1971年暮れ=昭和46年)が語られる。今まで猪木から裏切り者とされた上田の口から「実はあれは…」と真相が明かされる。

 倉森さんは「日プロ時代の古株Kがいろいろ密告のことを言っていますが、上田さんはひと言『あいつが知るわけないだろ』と一刀両断にしました。あくまで猪木さん、(ジャイアント)馬場さんと上田さんの3人だけの話だそうです」と回想する。

 さて、上田がファンに強烈なインパクトを与えた試合として知られるのは、今から39年前、1986年(昭和61年)3月26日、老朽化が進み、取り壊しの決まった東京体育館での最後のプロレス興行。新日本プロレス×UWFの5対5イリミネーションマッチだ。取材している我々も興奮させられた、珠玉の名勝負となった。

 新日は猪木、藤波辰巳(現・辰爾)、木村健吾(後の健悟)、星野勘太郎、そして上田馬之助。対するUWFは前田日明、藤原喜明、木戸修、高田伸彦(後の延彦)、山崎一夫。

 上田は外国人側でシリーズに参戦していたが、開幕戦から〝謎の行動〟を繰り返した。試合前、そして試合後にも猪木に握手を求めたのだ。猪木はけげんそうに、拒否した。この流れでシリーズが進み、ついに握手を交わすことに成功する。そして、最終戦のUWF軍との決戦に新日のメンバーとして加わった。

 猪木は、上田が〝用心棒〟としてメンバー入りするという布石を打っていた。

 試合はスリリングな展開となり、まず木村が山崎を逆さ押さえ込みでフォール。次は藤原が星野からアキレス腱固めでギブアップを奪う。上田はというと、どっしりと構え、まさに〝助っ人〟といったていだ。

 勢いに乗るUWF軍は、前田が木村にミドルキックを連発し、最後はフライングニールキックで場外に落とす。藤原は藤波にスリーパーホールドを決めるも、そのままの体勢で2人は場外に転落して失格となり、2人残りの新日と、3人が残ったUWF軍。

 ここで試合のハイライトが訪れる。前田が上田にミドルキックの連打からハイキックを見舞うも、倒れない上田。そして前田の左足をつかんだ上田は、強引に場外に引っ張り、道連れの〝場外心中〟を決行した(写真)。

 両者失格となり、悔しがる前田。対して上田はしてやったりの表情だ。猪木と前田の絡みを期待するファンから悲鳴が上がる。圧倒的に新日ファンが多い館内からは、歓声も上がった。

 その後、1対2とハンデを背負った猪木だが、高田をスリーパーホールドでギブアップさせると、木戸には反則気味のパンチを叩き込み、延髄斬りを決めてピンフォールを奪った。結局、猪木の1人残りで新日が勝利した。

 まさに上田がキーマンとなり勝利を演出した。

 ところで、「金狼の遺言」を読み進めていくと、上田が前田のことを高評価している記述がある。

〝前田はいい意味でデンジャラスな男である。体も恵まれていて、格闘技センスがいい。私の36年間のレスラー生活で、一度の不覚がある。それは、前田とやってモロに顔面にキックをもらったときだ。胸に来ると思っていたら、不意を突いて顔面に来た。あの一発だけだ。レスラー生活でわたしが唯一油断したのは…〟と。

場外で上田(右)の顔面にハイキックを見舞う前田(1986年6月、札幌)
場外で上田(右)の顔面にハイキックを見舞う前田(1986年6月、札幌)

 前田は「(イリミネーションマッチは)なんかオレ、ルールを勘違いして…」と記憶をたどってくれたが、さすがに39年前のこと。それ以上は思い出せないようだ。

 上田が高く評価していたことを伝えると、「アッそう?(うれしそうに笑う)。緒戦でオレの足、極めにきましたよね。さりげなくやるんですよ。さりげなく(笑い)。(セメントは)全然できない人じゃないんだって思いました。『オレだってできるんだぞ』みたいな示威行為っていうか…。懐の深い人で『やれるもんなら、やってみろ』って感じだったね。北沢(幹之)さんなんかに聞いたら猪木、上田っていうと、あの頃の実力者だったって言ってましたね」。懐かしそうにそう語ってくれた――。(敬称略)

 そんな上田の軌跡を記した「金狼の遺言」の復刻連載が東スポnoteで始まった。上田と公私ともに親しかったスポーツライターのトシ倉森さんの書き下ろしで、2007年1月9日から5月4日まで東スポ紙面に掲載されたもの。プロレスマニアは書籍で購入した方もいるだろうが、東スポnoteでは新たに秘蔵写真をふんだんに使用している。改めて読み返すのも、また一興ではないだろうか。【プロレス蔵出し写真館】の記事をもっと見る