【平成球界裏面史 近鉄編113】平成20年(2008年)、かつての所属球団だった近鉄バファローズが消滅してから4年後のジェレミー・パウエル投手は、大トラブルの渦中にあった。同年1月11日に古巣であるオリックスバファローズがパウエルとの入団合意を発表。年俸5500万円(推定)+出来高払いの単年契約で、背番号は50。メディカルチェックを受けた上で近日中に正式契約を結ぶ旨が球団から取材陣に伝えられた。
ところが、である。約2週間後の1月29日、今度は福岡ソフトバンクホークスがパウエル獲得の発表を行ったのだ。普通に考えても、これはもめる。誰が見ても、これは何かおかしい。当然、オリックスはパ・リーグ連盟に対して異議申し立てを行った。すでにオリックス公式サイトの選手欄や春季キャンプ参加メンバーにもパウエルは顔写真付きで掲載されており、球界は大騒ぎとなった。
オリックスサイドは同22日早朝にファクスで送られた、パウエルの自筆によるサイン入りの契約書のコピーを示し契約合意の根拠と主張。二重契約合意の疑いがあり、ソフトバンクのパウエル獲得の取り下げと不当性を訴えた。当時の球団本部長だった中村勝広は「こんな話は前代未聞だ。こんなのが認められるわけがないだろ」と激怒。チームメートだった清原和博は「登録名を『お金』にしろ」と強烈に批判した。
ただ、ソフトバンク側にも言い分があった。「NPBにおいては統一契約書が正式な所属を決定付ける唯一の物」と主張。パウエルが署名押印済みの統一契約書を持っていることを示し真っ向対決の様相となった。
パ・リーグは同30日に両軍から聴取を行い状況を精査。当時のパ・リーグ・小池唯夫会長は両球団ともに正当な手続きを踏んでおり、パウエルによる二重契約である可能性が高いとの判断を示した。ただ、これでは所属がどちらという判断には至らず。騒動は泥沼化になるでのはという空気が漂った。
事態が進展を見せない中、2月4日に小池会長が統一契約書の存在を根拠に、パウエルをソフトバンクの支配下選手として登録申請を認める見解を示した。ただ、球界を大混乱に陥れたという観点から、支配下登録申請の受理は6月23日以降とペナルティーを設定。開幕から3か月は出場停止状態でソフトバンクへ入団する流れとなった。
だが、それではオリックスが黙っているわけもない。オリックス側は「何の解決にもならない」と不満をあらわにしパ・リーグを批判した。
そんな中、2月5日にパウエルが都内で会見。「私は二重契約をしたつもりもないし、これは二重契約ではないと思っている」と自らの正当性を主張。会見の冒頭でパウエルは「これは僕の名誉にかかわる問題だ」と話し、清原和博の「登録名は『お金』にしたら」という発言に対しても「そういうことではない」とオリックスとの交渉経緯について説明を始めた。
契約事には確認に次ぐ確認が必要だとは誰もがわかっているはずなのだが…。ただ、パウエルはこの会見で本人の口からソフトバンクでプレーすることを希望しており、古巣のオリックスには不信感を抱いていることが明らかになっていく。















