【森脇浩司 出逢いに感謝(57)】城島健司がMLBのマリナーズに移籍し、2006年はソフトバンクホークスのスモールベースボールへの転換期でもありました。前年には井口資仁もホワイトソックスに移籍していました。

 王貞治監督と数年前から話していたことは、この先を考えたら城島、井口が近い将来、抜けていく。この先の野球のスタイルを変えていく必要がある。強い打線を作るのは条件だけど、その中でも物理的に小久保裕紀、城島、井口みたいなタレントを育成できるかどうか。今まで以上にスモールベースボールが絶対に必要になってくる。まさにその年は違った野球になってきていた。

 三塁だってバティスタを切ってルーキーの松田宣浩を起用。二塁もオープン戦での骨折がなければ本多雄一を使おうとしていた。若い2人がチームを引っ張る存在になっていく。今までのように打つことで圧倒できるチームでもなくなったし、小粒になった。

 三塁ベースコーチとして立っていると4月、5月と各チームの投手がコケていくんですよ。ホークスと接戦したらやられる、というイメージがあるから腕が縮こまっていく。捕手も城島じゃなくて山崎勝己になっているのに本能というか、向こうから勝手に崩れていた。それが6月くらいから気づいて腕の振りがどんどんよくなってきて、横から見ていて「ヤバいぞ」と…。相手投手が冴えわたり、小粒になった打線はさらに点を取れなくなっていったというね。

 そういう現実の中で7月5日、王さんが胃の腫瘍摘出の手術を受けることが発表され、6日からチーフ兼内野守備走塁コーチの僕が代行監督を務めることになりました。5日の試合後、王さんが選手みんなを集めて「俺は明日から戦列を離れる」という話をし、その後にコーチを集めて「明日から森脇に指揮を執ってもらう」という発表をするわけです。

 もちろん事前に王さんから実はこうだから頼むぞ、という話は聞かされていました。でも…。その日の試合前のシートノックが終わり、ロッカーに戻ってアンダーシャツを着替えていたんです。そうしたらたまたま王さんが入ってきて、その流れの中で「実は俺はがんが発見された。今日を最後に離れるから明日から頼むな」と…。立ち話でそれだけですよ。驚きますよ。一緒に何年もやっていたし、信頼があったからかもしれません。でも翌日のことだし、もっと十分なプランの説明があると思うじゃないですか。

 その時、王さんって本当に野球が好きなんだと思った。この事実を本当に悔しがっているだろうと。何より好きな野球から離れるということが悔しくて寂しくてたまらない。それが自分の気持ちを支配しているんだろうと。そう考えたらいちいち監督室で言えなかったんじゃないですか。王さんの代行として指揮を執る。動揺もするし、明日から大変なことになるぞと…。