【森脇浩司 出逢いに感謝(55)】王貞治監督は常々「ダイエーの選手を全国区にするんだ、なるんだ」と言われていた。注目されれば日頃から意識し、それに見合った自分を確立させようと努めるだろう。この世界は注目されてナンボ。非難もされるけど、称賛もされる。巨人なら勝ってなくてもメディアに取り上げられる。九州は東京から離れているデメリットがあるとか、一番南のチームだからとか…そういうハンディを全部覆し、球界に君臨していくんだ。そういう思いが強くあり、それを浸透させていくのがわれわれコーチの役割と思っていました。

 勝てなかった頃は卵をぶつけられたりとか、風当たりも相当なもんだったと思う。でも王さんの気持ちはずっと変わることがなかった。ゲンキンなもんで優勝したら周囲の見方は180度変わり、弱い頃からずっと同じことを言っているのにポジティブに捉えられる。勝てば官軍。勝って守るんじゃなく、勝つことで変化し、スピードを緩めない。周りの攻め方が強烈になってくる中で、もっとやるんだということ。

 負けてる時って試合でとんでもないことが起こるから負けるんです。腹も立つし、ミスが重なってくる。ゴルフでトーナメントを優勝するようなプロはOBを打たないし、とんでもないことをするから脱落していくわけです。勝てないと王さんだってカッカするし、みんなを集めて言わざるを得なくなるでしょ。でも連覇し、この先もずっと優勝争いするようなチームになっていくと、とんでもないことが起こる回数が少なくなり、王さんだってカッカしなくなるでしょ。

 2001年、02年は2位に終わり初めて「V逸」という悔しさがありました。Bクラスが常連なら2位、3位に入ればAクラスに入れたという一つの達成感がありますが、もはや連覇しているチーム。僕は秋季キャンプの時期から日本シリーズに勝つことを逆算してスケジュールを立てていました。秋はこういうメニューで始め、春は紅白戦をこうやってとか、選手にもオープン戦から前日のプレーのミスを言い聞かせるようにした。なぜなら「われわれはリーグ優勝を目指すチームじゃない。日本シリーズに勝つことを目的として歩むんだ。だから昨日のプレーもおろそかにしてたらヒビが入って致命傷になってくる。だから今日から改めていこう」とね。

 過去にはピンとこなかったことが、連覇して目指すところの共通認識はできている。十分に理解できるはずだということです。上にいるチームにしか「V逸」という言葉は当てはまらない。全盛期のタイガー・ウッズは予選落ちとか、トップ10に入れなかったことなんてないですよ。それが優勝争いに加われなかったら「V逸」となり、野球なら対象チームにしか言われない。そういう意味でその2年間は非常に悔しい思いがありましたね。