【森脇浩司 出逢いに感謝(53)】王貞治監督はいつも「世界の王さん」だったかどうか…。驚いたのは王さんがサミー・ソーサのイベントで渡米していた時「どこかまでパウエルさんが迎えに来てくれるんだよ」と言っていたんです。僕はてっきり中日で首位打者を取ったアロンゾ・パウエルかと思った。球界の先輩なんで王さんを迎えに来てくれるんだな、と思っていたら…実はコリン・パウエル国務長官だった。世界に出れば出るほど違うんだなあ、と思った。

 かわいい一面を見せたり、感情を出すような時もある。庶民的な中華料理店が好きでも、公式の場や会談となればそういうわけにはいかない。本来の自分はこうでも、そこに身を投じればこうあるべき、というのはあったと思うし。周りのニーズに応える自分がないと成り立たない。調和を保っていたと思いますね。

 2000年にダイエーはリーグ連覇を果たし、前年に急逝した前監督の根本陸夫さんの悲願だった長嶋巨人との日本シリーズが現実となった。根本さんは結果が出ないわれわれに「お前ら何を遠慮してるんだ。ここにいる王くんはラーメン屋のせがれだ。遠慮するからうまくいかないんだ」と言われた。いわゆる真正面から向き合えということで、改めて中途半端な気持ちではいけない。もう一回、殻を破ってやろうと。チームにとって大きな転機となる言葉となり、それが連覇につながったと思います。

 ON決戦を絶対に勝つという気持ちでも、特別なものがあったわけではない。普段から勝たなくていい試合はなく、天王山とか、分岐点になる試合とか、節目の試合の意気込み、心の持っていき方と同じでした。周りの盛り上がり方がすごかったですよ。東京ドームの初戦の始球式が高橋尚子さん。三塁ベースコーチから見たフラッシュのすごさが忘れられない。

 結果は2連勝した後の4連敗に終わり、王さんの悔しがりようを見た時に本当に勝ちたかったんだな、と思った。東京ドームで終戦し、宿舎に戻るなり、すぐに王さんに呼ばれた。コーチの中では一番年下でも決め事や何かあったら最初に呼ばれたりしていたんです。何かと思ったら第一声が「おい、明日何時から練習だ」って…。

 福岡で負けても普通は休みだし、東京にいて明日福岡に戻るわけです。数日間の休みを減らして練習しようというのでもなく、あの大きな目でとんでもない血相で…。俺は我慢できない、こんな悔しさはない。どう考えてもコントロールできないという勢いでした。「監督、明日はさすがに休みにしましょう」と言うと「なんでだよ!」。しばらく時間がたち、冷静になられた監督は選手を集めて話をされた。「シーズンは勝ったけど、シリーズは勝てなかった。来年もホークスが標的にされる。変化、チャレンジしていこう。明日は移動だけだ」。僕でワンクッション置くことができてホッとしましたね。