【森脇浩司 出逢いに感謝(48)】いよいよホークスに王貞治監督が誕生する。架空のものが現実になった時、当然のようにとんでもないくらい驚きました。下の世代は現役のころを知らなくても僕らは知っている。世界の王、ジャイアンツの王さんが福岡に来るとは…。九州の人も相当な驚きだったんじゃないですかね。今では「ソフトバンクの王会長」が根付いていますが、当時は考えられなかった。

 改めてフロントの根本陸夫さんのイマジネーション能力はすごいし、自分の人生プランでもあり、球界のプラン。まさに「シー・アラウンド・ザ・コーナー」で、角の向こうが見えるかどうか。導いていく人はそれが見えないといけない。思いつきではなく、エビデンス、論理のもとに成り立っているかどうか。その先見の明がすごいですよ。

 目の前が少々散らばっていても「この散らばりは後回しでいい」ということなんです。勝ち負けなら普通の監督は目の前の問題を処理するでしょうけど、根本さんはその先が大事と考えた。当然、球団ともどういう2年間、3年間を過ごすかの中長期プランがしっかりできていたということ。負けてもいいというわけではないけど、勝っても負けてもそういうことを積み重ね、将来的に揺るぎないものにするための時間を歩めているかどうか。そこが分岐点になったと思いますね。中内功オーナーの根本さんへの絶対的な信頼があったということです。

 1994年の10月に王監督の就任が発表され、ドラフトで別府大付高の城島健司、FAで西武から工藤公康、石毛宏典さんを獲得。王ダイエー1年目に向けて補強を重ね、コーチ陣にはカープ時代にお世話になった寺岡孝さん、達川光男さん、高橋慶彦さんが来られました。王さんが巨人時代に一番苦しめられたのがカープ野球だったということでね。

 王監督は完璧主義者でした。2年目の小久保裕紀がいて西武から秋山幸二が来た中、王さん自身が誰より本塁打を打ってきた人。投手でも打線でも相手を圧倒するんだ、一方で個人技でも魅了し、勝つためには走塁力、守備力は不可欠だと。すべてにおいて他を圧倒する、という思考が強かったと思うんです。

 それだけの選手がそろうのか、鍛えたからみんなが身につけることができるのか、ということに関しては妥協するところが出てくる。チームは発展途上。発展したとしても完璧な人ばかりではないし、いろんなことがある。監督の頭には「圧倒したい」との思いがあったし、そういうものがないと「さらに、さらに」と歩むのは難しかったでしょう。

 しかし、現実的に見れば…。これだけ長く低迷しているチームが秋山、工藤、石毛さんを獲ろうがそんなに急激にガラリと変わるわけではないので、その葛藤はものすごかったと思います。さらに1年目はトラブルの多かった大物助っ人ミッチェルがいて…。