【森脇浩司 出逢いに感謝(52)】松中信彦、小久保裕紀、井口忠仁、城島健司、さらにはキャラクターは違っても柴原洋、村松有人ら期待すべき選手が着実に成長してきた。王貞治監督が勝てなかった頃に入ってきた選手、コーチらにとってはいろんな思いがそこにある。この期間を過ごしたことに味があるというかね。
選手として、一軍コーチとして王さんと苦楽をともにすると、世界の王さんのまた違った人柄に触れることになります。仙台で負けた日のある夜、王さんは珍しく「今日は帰ってこなくていいから気分転換してこい。明日の出発に間に合えばいいぞ」なんて言ったかと思えば、翌日の神戸の試合に負けたら「今日から外出禁止だ!」。昨日とは全然違うぞと…。でもリーダーとして気持ちの変化はあって当然と思うし、ブレているとか優柔不断じゃなく、思うような結果が出ないと別の手を打つのは当然でしょう。
オープン戦でオリックスの3投手にノーヒットノーランされた日、王さんは怒りをかみ殺していました。なのに姫路の宿舎の食事会場で見ると、王さんのテーブルの前には空いた皿が9皿も…。ショックなことがあったら食事が喉を通らないとか、食欲が出ないとか言うけど、逆にやけ食いする人もいる。そんなことがあったのに瞬く間に食べてすごい食欲だと…。
移動バスでも運転手はゆっくり安全運転を心掛けるでしょ。でも負けて機嫌のよくない時は運転手に直接言わずにマネジャーに「もっと急ぐんだよ…。はよ行けって言うんだよ」なんてせかすんです。あの王さんだってカリカリすることはありましたよね。
ベンチでガックリされていたこともありました。手塩にかけた井口にフリー打撃で熱心にアドバイスし、試合になるとベンチで立って前のめりで見てる。どんな打撃をしてくれるか楽しみで仕方ない。王さんは詰まらされることをすごく嫌う人なんです。期待の井口が無死一塁で打席に入ってきた。すると初球を差し込まれてとんでもないファウルを打ったんです。思い描いているのと正反対のスイングをし、一気にベンチにへたり込んでしまったことがありました。それだけの素質があるのになんでなんだっていうね。
グレートな一方で、こんなせっかちなのか、“いらち”なのか、と思うこともある。ちょっとしたことですが、かわいい一面に出会うこともありますし、人間なんですよ。僕はそんなベンチでの表情を三塁ベースコーチスボックスから見ていた。井口のスイングを見て大きなショックを受けても「微動だにしない王貞治」を演じるのか、と思ったらいきなりへたり込んで「好きにせえ」みたいなね(笑い)。その井口も後に時代を築く選手になっていくわけです。
いろんな王さんを見て勉強させてもらいましたが「この人を日本一にしたい」という思いだけはブレません。そして2000年についに「ON決戦」が実現します。












