翼の折れた不死鳥は今、何を思うのか――。負傷欠場中の女子プロレス「スターダム」の上谷沙弥(26)が約3か月ぶりに沈黙を破った。7月23日に行われたシングルの祭典「5★STAR GP」開幕戦(大田区)で、ワールド王者・中野たむと対戦した際、約5メートルの高さから特大プランチャを放ち、レフェリーストップで敗戦。左ヒジの脱臼及び靱帯損傷で戦線離脱となった。一時は引退も考えたほどの絶望を味わった上谷が、当時の心境や復帰に向けた思いを激白した。

左からAZM 上谷沙弥 林下詩美
左からAZM 上谷沙弥 林下詩美

 ――ケガの具合は

 上谷 最初の1か月はギプスで固定していて、外してからは固まった左ヒジを徐々に動かすリハビリと、腕以外の筋トレを始めました。今はだいぶ腕が動くようになったので、ジムに行って有酸素運動を増やしたり、道場に行ってマット運動とか受け身とか基礎トレーニングを見直してます。

 ――驚異の回復力だ

 上谷 最初は「治るまで半年ぐらいかかる」って言われてたんですけど、状態もだいぶ良くなってきているので、予定よりは早く復帰できるかなとは思っています。でも、久しぶりにロープワークしただけであざとかもできたし、受け身しただけでむち打ちみたいになって全身痛いし…。改めてプロレスラーってすごいなって思いました。

 ――負傷した瞬間は

 上谷 プランチャで飛んだ時にいつもの癖で、地面に手のひらからついてしまって。その瞬間に、ヒジがありえない方向に曲がって「あ、終わったな」って思いましたね。レフェリーには「続けたい」って言ったけど、動ける状態じゃなかったので止めてくれて良かったと思いますね。

 ――開幕戦で相手はワールド王者の中野だった

 上谷 白いベルト(ワンダー)を落として、赤いベルト(ワールド)に照準を定めて挑んだ「5★STAR」だったし…。より一層気合が入っていた上にメインイベントで、かつ相手が赤の王者っていう、すごくおいしい状況だったのでめちゃくちゃ悔しかった。

 ――落ち込むことは

 上谷 私は割と感情的な方なので、試合が終わって処置してもらった後「情けない」「もうプロレスやめたい」「人前に立てない」って何回も口にしてました。その後はいったん気持ちをリフレッシュさせるために見るのも考えるのもやめて、プロレスから離れたんです。でも、やっぱり時間がたつごとにプロレスのことばっかり考えちゃってる自分がいたし、スターダムのビッグマッチとかをPPVでチェックしてました。そして、そばにずっと(林下)詩美さんがいてくれて「大丈夫だよ」って声をかけてくれたので、今は復帰に向けて前を向けてます。

 ――自分が不在のスターダムを見て

 上谷 お客さん、みんな物足りなさを感じてるんじゃないのかなって思いますね(笑い)。でもやっぱり試合数が多い分、自分をはじめとして欠場者とかが最近増えてきてるのが気になる部分です。ユニットとしてもここからっていう時に自分がケガして、詩美さんにQQ(クイーンズ・クエスト)を背負わせすぎてしまった。QQの大復活はこれからなので、楽しみにしてほしいですね。

 ――「5★STAR」は最終公式戦で対戦するはずだった鈴季すずが優勝

 上谷 大事な相手だったし、自分が優勝するはずだったのにっていう気持ちですごく悔しかった。それに試合を見て、すずがスカイツイスタープレス、リバースフランケン、スパニッシュフライとかを出していて、怖いものなしで一直線に進んでる感じが白いベルトを巻いていた時の自分と重なる部分があって…。見てることしかできない自分がもどかしかったし、うらやましかったです。なので復帰戦は、すずを指名して勝って、「5★STAR」で優勝した栄光も何もかも奪って、引きずり下ろしてやりたいと思ってます。

 ――急にキャラが変わったようだ…

 上谷 それくらい悔しかったですし、もし自分がリングに立ってたら、見えてる景色は絶対に違ったので。(鈴季は)11月に挑戦するみたいなので、私が復帰した時に赤のベルトを持っていたらさらに燃えますね。でも、現王者の中野たむにはリベンジしたいです。最後まで試合をできなかったことがすごい心に残ってる。欠場してベルトとの距離が遠くなってしまった分、より一層あのベルトが欲しいって思って防衛戦を見ていました。

 ――復帰後のイメージは

 上谷 正直、飛ぶのは怖いです。この欠場期間で自分のプロレススタイルを見直す時間が増えたので、今までの自分の良さとかは残しつつ、派手な部分だけじゃない、深みのあるプロレスを見せていけたらと思ってます。海外のプロレスやいろんな団体、年代の映像を見て研究してます。片方の羽が折れた不死鳥がどのようにはい上がっていくか期待してほしいです。

 ☆かみたに・さや 1996年11月28日生まれ。神奈川県出身。幼少期にダンスを始め、2009年の世界大会ではジュニア部門で世界第2位に。バイトAKBやEXILEのバックダンサーを経て、19年8月10日後楽園大会で渡辺桃相手にデビュー。23年3月に「V15」のワンダー王座最多連続防衛記録を樹立。必殺技はフェニックススプラッシュ。168センチ、58キロ。