就任1年目の広島・新井貴浩監督(46)は善戦及ばず2位以下が確定した。18年ぶりにリーグ制覇を決めた阪神とは「ちょっとの差だと思うが、そのちょっとが大きかった」と話しているが、その〝差〟とは何なのか。球団OBで本紙専属評論家の大下剛史氏は駒大の後輩でもある新人指揮官に「厳しさが足りなかったのではないか」と指摘した。

【大下剛史・熱血球論】新井監督はコーチ経験もないまま、4年連続Bクラスと苦しんでいた古巣の指揮官に就任し、現在2位と5年ぶりのCS進出を射程に捉えている。優勝こそ逃したが、大健闘と言えるだろう。

 ただ、やはり目指すべきは優勝だ。今は2位を確定させるべく目の前の試合に集中する時だろうが、頭の片隅ででも何が足りなかったのかは考えなければならない。優勝した阪神との差――それはズバリ、勝負に対する厳しさだろう。

 今年の戦いぶりを見ていて、選手のやり繰りをうまくやっているという印象は受けた。まだまだ現役時代に一緒に戦った選手も多く、やる気や能力をうまく引き出していたと思う。

 リーグ3連覇に貢献しながらここ数年は満足な成績を残せていなかった元守護神の中崎は、今季33試合の登板で防御率2・87と復活。ベテラン内野手の田中も前年の41試合から106試合と出場機会を増やし、攻守で健在ぶりを示した。もちろんマネジメント能力は指揮官に不可欠な資質だが、新井監督がシーズンを通して我慢し、鍛えて、育て上げた選手となると名前が挙がってこない。

 育成と勝利を両立させるのは難しい。ドラフト戦略などの巡り合わせもある。ただ、プロの世界に「平等」はない。均等にチャンスを与えるというと聞こえはいいかもしれないが、それでは突出した選手は出てこない。「勝てるチーム」をつくるためには「これだ」と思った選手を徹底的に鍛え上げることも必要だ。

 他でもない、新井監督自身がそうやって育った選手だった。新人だった1999年、ヘッドコーチだった私は駒大の後輩でもあるルーキーに容赦ないノックを浴びせた。旧広島市民球場では意図的にビジターチームが来てから〝これ見よがし〟にやったこともある。内外に「広島は新井を一人前の選手に育てようとしている」と知らしめるためだった。

 新井監督の人柄の良さは現役時代から誰もが知るところで、だからこそ多くのファンから愛されてきた。しかし、指揮官として強いチームをつくる上では「鬼」にもならなくてはならない。ファンが喜んでくれるのは鍛え抜かれた選手が躍動する姿で、それがカープの伝統でもある。

 選手への遠慮などいらない。自分の野球観を貫き通せば、おのずと結果は伴ってくるだろう。「新井監督ならできる」と信じている。(本紙専属評論家)