〝プロレスリングマスター〟からラストメッセージだ。ノアの武藤敬司(60)が、21日の東京ドーム大会で38年の現役生活にピリオドを打った。新日本プロレス・内藤哲也(40)との引退試合後、闘魂三銃士の盟友・蝶野正洋(59)とリングで相まみえるサプライズもあったが、万感の思いで慣れ親しんだ四角いマットを後にした。独占手記の後編ではマット界についての提言をつづった。

 目の前に可能性がある以上は、日本のプロレス界も世界にマーケットを広げていきてえよな。そのためにレスラーはどうしたらいいかって、難しいよね。地球規模でウケるレスラーにならなきゃいけないから。どんな国の人にも説得力のあるレスラーを目指さないといけないだろうな。何を売りにするのかは選手それぞれだし、俺には分からないけどさ。

 ただ、これからはそこまで意識したほうが面白いよ。今は九州に行ったり東北に行ったり、時にはすごい小さな街にも行ってるけど、そのうちアメリカ、カナダ、欧州にも行って…っていう巡業になっていくかもしれない。普段の国内の試合を配信して「年1回、ワールドツアーだ!」みたいになったらおもしれえじゃん。その時はぜひ、俺も同行してえな。海外はどこもハンディキャップに優しいから。

 全然、その可能性はあると思うんだよ。確かにWWEのプロレスが好きな人は世界レベルでいるかもしれない。だけど、日本のアニメだって負けず劣らず世界でウケているわけだ。絶対、似たようなものをつくれるよ、日本のプロレスだって。

全日本のファン感では、女子レスラーを招くことも(2011年)
全日本のファン感では、女子レスラーを招くことも(2011年)

 そのカギになるのが女子プロレスなんじゃねえかと思っていてさ。特に女子プロレスの「団体」っていうのが、すごいチャンスなんじゃないかって思うんだよね。なぜなら、アメリカにないからだ。WWEに「女子部門」はあるけど、全てが女性の「団体」っていうのはないじゃん。そういう意味で「女子プロを手掛けてみたかったなあ」というのはあるよ。今からだって機会があれば、そういうのをやるかもしれないしね。

 でも、グローバルに戦うためには、プロレス自体を世界に通用するクオリティーにしないと無理だと思う。なんで日本のアニメが海外で受けるかって、クオリティーがいいからだと思うんだよ。多分、海外もそれぞれの国にアニメはあるけど、それより日本のもののほうがクオリティーがいいんだろうな。だから世界に食い込んでいけるんだ。つまりプロレスも、その国のプロレスよりクオリティーのいいものを見せなければダメなんだよ。

 かつてグレート・ムタは「デカいけど飛べる」というクオリティーと目新しさをもってアメリカで一人、戦ったわけだ。でも、今後は個人ではなく団体として、クオリティーと目新しさを武器にやっていかなきゃいけねえ時代になるんじゃないかなあ。

 最後に、何より言いたいのはファンの皆さんへの感謝ですよ。もしかしたら俺も皆さんを支えたのかもしれないけど、俺だって支えてもらった部分はあるんだよね。ファンがいるからこそ、やっているわけであって。皆さん、本当にありがとうございました。

(武藤敬司)

 ☆むとう・けいじ 1962年12月23日生まれ。山梨・富士吉田市出身。84年に新日本プロレス入門。同年10月5日の越谷大会で蝶野正洋相手にデビューし、海外でもグレート・ムタとして活躍した。2002年に全日本プロレスに移籍し社長就任。13年には新団体W―1を旗揚げした。21年2月にノア入団。獲得タイトルはNWA世界ヘビー、IWGPヘビー、3冠ヘビーなど多数。「プロレス大賞」MVPを4度獲得した。188センチ、110キロ。