生まれるのが40年早かった――。ノアの武藤敬司(60)が、21日の東京ドーム大会で38年の現役生活にピリオドを打った。新日本プロレス・内藤哲也(40)との引退試合後、闘魂三銃士の盟友・蝶野正洋(59)とリングで相まみえるサプライズもあったが、万感の思いで慣れ親しんだ四角いマットを後にした。「プロレスLOVE」を完結させた天才は今、何を思うのか。独占手記を公開する。
現役生活を振り返ると「あっという間だった」っていうのが正直なところだね。駆け抜けたというか…。だからなのか、思った以上に自分の〝作品〟を覚えてないんだ。
最近はユーチューブとかで若いころの試合も流れてくるけど、見ても全然覚えてなくてね。もともと自分の試合は見ないタイプだった。振り返るよりも先のことを考えてきた。だから覚えてないのかもしれないな。
引退してやりたいことは、一番の目標はズバリ、健康になること。まず普通のおじさんになりたいんだ。普通のおじさんって、電車やバスに乗れるじゃん。でも、俺はそれすらもできないから。あちこちボロボロで。バスなんて乗って、もし座れなかったら地獄だもん。
でも、特別ゆっくりしたいとか、休みたいとかどこかに行きたいとかはないよ。生活は今までと大きく変わらないと思う。というのも両ヒザを人工関節に置換した以上、運動を続けないといけないからだ。
もしも運動をサボって骨が細くなったら、人工関節の機械と骨のサイズが合わなくなって危ないんだよ。だから日々のルーティンは変えないつもりだよ。酒も好きだしね。酒は汗をかかないとうまくないじゃん。
ルーティンの内容は朝は午前5時に起きて朝飯を食って、ゆったりしてからちょっとストレッチをして。8時半に出かけて9時からジムで練習して、そこからサウナに入ったり日焼けしたりしたらもう午後1時半とかでさ。そこから何時間か自由時間の後、メシを食ってだいたい10時半には寝る。もうずーっとそういうルーティンだ。今後もそうするよ。他にやることなんかねえもん。ひょっとしたら目標をつくって、今より集中して体をつくるかもしれねえな。
今後のプロレス界か…。ある意味、俺の引退と同時に「昭和のプロレス」っていうのはなくなっちゃうと思うよ。それで、新しい時代のプロレスが始まる。これは未来のヤツらがつくり上げないとしょうがないと思うよ。アントニオ猪木さんやジャイアント馬場さんたちがつくり上げた「昭和のプロレス」って、テレビの民放と一緒につくり上げたもので、「猪木商店」「馬場商店」という個人経営型のビジネスだよね。俺も一時は「武藤全日本」とか言われて個人商店をやっていて、結局その域を超えられなかった。
でも、これからは多分、もっとグローバルになっていくと思うよ。例えばノアはサイバーエージェントが親会社でさ。個人商店ではなく、総合商社としてワールドワイドに発信するビジネスチャンスがあるじゃん。
だからこそ、そこにふさわしいスターが生まれなきゃダメなんだよ。そういう意味で最近、「俺は生まれるのが40年早かったな」って、よく思うんだよなあ…。
☆むとう・けいじ 1962年12月23日生まれ。山梨・富士吉田市出身。84年に新日本プロレス入門。同年10月5日の越谷大会で蝶野正洋相手にデビューし、海外でもグレート・ムタとして活躍した。2002年に全日本プロレスに移籍し社長就任。13年には新団体W―1を旗揚げした。21年2月にノア入団。獲得タイトルはNWA世界ヘビー、IWGPヘビー、3冠ヘビーなど多数。「プロレス大賞」MVPを4度獲得した。188センチ、110キロ。