【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】広島は宮崎・日南での1次キャンプを終え、沖縄市に移動。2次キャンプ初日となった17日の新井貴浩新監督(46)は来賓への対応など、練習以外でも慌ただしく動き回っていた。
そんな姿を見ながら思い出したのが、2008年4月1日の広島―阪神(旧広島市民球場)だ。この試合は新井が広島から阪神にFA移籍して初めての古巣との対戦だった。試合前のフリー打撃を終えてベンチに戻る阪神・新井には強烈なヤジが飛んだ。
「裏切り者ーっ。帰れ」
ある程度は想定していただろう。だが、ヤジの主は執拗だった。スタンド最前列から異常なほどの大声で連呼。グラウンドで取材をしていたこちらも「うるさいんじゃ。黙らんかい」と関西弁で応戦してしまうほどのしつこさだった。
その時、新井はヤジの方向をじっと見て立ち続けた。ベンチに入るようスタッフに促されても声がやむまで聞き続けた。その光景を新監督も覚えているに違いない。
あれから15年の月日が過ぎようとしている。その間のドラマは短時間では語れない。阪神に14年まで在籍して優勝ゼロ。出場機会も激減した14年オフ、自ら自由契約を申し出て他球団への移籍を模索した。そこに手を挙げたのが広島だった。
レギュラー確約など当然ない。「出戻り」という形で古巣の一員となった。そして移籍2年目の16年に打率3割、19本塁打、101打点と完全復活し、38歳にしてリーグMVP。少年時代から大好きだったカープを25年ぶりのリーグ優勝に導いた。
このシーズンは通算2000安打、300本塁打も併せて達成。17、18年と3連覇を置き土産に現役引退という最高の形で野球人生晩年を締めくくった。そこから4年の評論家生活を経てカープ第20代監督に就任するとは、15年前の阪神・新井は思ってもみなかっただろう。
新井監督に現役時代、スタンドからの声で最もうれしかった言葉を問うと、こんな答えが返ってきた。
「阪神から広島に移籍して『お帰り。待っていたよ』と言われた言葉ですね。自分から(FAで)出ていったのに、そういうふうに言ってもらえてうれしかったですね」
さて、監督となった今季は、スタンドからどんな声を聞くことになるのか。
「そんなにいい結果ばかり出るとは思っていないですしね。勝敗によって厳しい声も聞こえてくるでしょう」
広島ファン、チームメートに愛された「新井さん」がカープを導く立場となった。予測不能の未来へ挑む覚悟はできている。













