【取材の裏側 現場ノート】一人のオンナがプロレス・格闘技の〝聖地〟を訪れたのは2020年3月14日のことだ。

 当日券売り場で購入したチケットを手に入場ゲート、グッズ販売エリアを通り抜ける。グッズ売店では試合を控えた選手たちがファン対応に追われていたが、誰もそのオンナに気づくことはなかった。わずか5か月前まで、同じ団体に所属した同僚だったのだが…。

 オンナの正体は、数か月前にスターダムに移籍したジュリア。一人の観客として訪れたのは、アイスリボンの後楽園ホール大会だった。「私はアイスリボンをやめた後も、古巣のことは気にしていたからさ。主にすずが気になって」と振り返る。

 当時のジュリアは、移籍時の騒動も重なり知名度も一気に広まっていた。ましてはアイスリボンの選手、ファンが来場に気づけば、大騒動になった可能性が高い。では、なぜ誰にも気づかれなかったのか? ジュリアはいたずらっぽい笑みを浮かべて明かす。

「ヅラをかぶって眼鏡してマスクをして…旅人みたいな服を着こんだからさ」

 その時の自撮り写真を見せてもらったことがある。地味な服装で、しかも着膨れ。スッピンにアラレちゃんのような巨大眼鏡をかけた姿に団体のプロフィル欄にある「美しき狂気」の面影はみじんもなかった。一瞬「これは誰?」と聞き返してしまったほどだ。

 話を戻そう。危険を冒してまでジュリアがアイスリボンの会場を訪れたのは、本人も言う通り、鈴季の成長を確認するためだ。〝姉貴分〟からの無言のエールに応えるように、忍者風のコスチュームに一新した鈴季は、その試合で先輩の藤本つかさから金星を挙げ、ICE×∞王座挑戦を表明した。

 その姿を見たジュリアが何を感じたかは、言うまでもないだろう。もはや鈴季は〝妹分〟ではない。ライバルと認める数少ない存在だ。2月4日のエディオンアリーナ大阪第1競技場大会では、ジュリアが持つワールド王座をかけて激突する。ともにアイスリボンでデビューし、紆余曲折を経てスターダムのリングで再会した2人は、どんな戦いを見せるのか注目だ。(プロレス担当・小坂健一郎)