【取材の裏側 現場ノート】巨人時代の内海哲也を取材した中で忘れられない言葉がある。

「僕は名誉だと思っています」。このセリフを聞いたのは、オフに西武へ電撃移籍することになる2018年のシーズン中だった。内海が「名誉」と胸を張ったのは「プロ通算100敗」のことだ。当然、負けたい投手などいない。内海自身も先発投手として「どれだけ貯金を稼げるか」を頭の真ん中に入れて腕を振ってきた。だが、勝つ試合もあれば、負ける試合もあるのが勝負の世界。自分が「貯金」を稼げれば、チームの順位も上がる。だからこそ、自身の勝敗数は常にインプットされていた。

 内海は同年8月28日の広島戦(東京ドーム)で3回途中8失点を喫し、ついに100敗に到達。プロとしては屈辱的な成績なのかもしれない。内海本人はどう捉えていたのか? その時に出てきたのが前述の言葉だった。そして、彼が「名誉」と言った理由はこうだ。

「勝ちにつながるのがいいですけど、100敗もできるってなかなかないことじゃないですか。その分だけ一軍にいて、マウンドに上がれたってことですから。それだけ投げさせてもらえたから、それだけ負けることもできた。100敗というのは不名誉かもしれないけど、僕の中では財産になると思っています」

 チーム内の競争に勝ち、首脳陣からの信頼を得られて初めてマウンドに上がることができる。プロは弱肉強食の世界。夢をかなえ、プロ入りできたとしても、一度も一軍の舞台に立てずにユニホームを脱ぐ選手も少なくない。そうした過酷な環境で内海は19年間、信頼を勝ち得たからこそマウンドに上がり続けることができた。

 335試合に登板し、135勝104敗。こだわった貯金も「31」残した。若手もついていけないほどの練習量で走り続けてきた内海投手。現役生活、本当にお疲れさまでした。(巨人担当・大島 啓)