【取材の裏側 現場ノート】あえて調整なしで挑んだレース。絶好調ではなかったはずだ。それでも世界選手権で5大会連続のメダルを勝ち取った競泳男子の瀬戸大也(28=TEAM DAIYA)の泳ぎは、パリ五輪金メダルへの夢を膨らませてくれるものだった。
6月22日に行われた世界選手権(ハンガリー・ブダペスト)の200メートル個人メドレー決勝に出場した瀬戸は前半を4位で折り返すと、第3泳法の平泳ぎで一気に差を縮め、第4泳法のクロールは最後の数ストロークをノーブレスで泳ぎ切って銅メダルを獲得。「ラストレースはしっかりと納得できる形で日本に帰りたいと思った。できることをやり切って、なんとかメダルを持って帰れたのは、パリ五輪に向けていいスタートかな」と安堵の表情を浮かべた。
昨夏の東京五輪ではメダルなしに終わったものの、3月からは東海大の近くに部屋を借り、2016年リオデジャネイロ五輪女子200メートル平泳ぎ金メダルの金藤理絵氏を育てた加藤健志コーチに師事。かねて口にしてきた〝五輪金メダル〟への道を再び歩むべく「日本一厳しい」と称される名コーチの門を叩いた。
「本気で五輪で金を取りたいなら、今までの行き方全てを変えてやり尽くさないと無理だよ」(加藤コーチ)。世界選手権では無類の強さを発揮してきた瀬戸だが、五輪ではわずか銅メダル1つのみ。五輪で勝つためにはどうする必要があるのか。加藤コーチの愛のムチを受けた瀬戸は、覚悟を決めた。
練習量は格段に増え、1日10時間を超えることもある。今までの瀬戸は、体がしんどくなったらすぐに練習を休んでいた。ところが、加藤コーチは「僕の場合は1回も休むなという感じ」と笑う。五輪に100%の状態で臨めるとは限らない。どんなに状態が悪くても、金メダルを取れる泳ぎができないと、五輪で日の丸を掲げられないとの考えからだ。今までのルーティンは全部崩す。全てはパリ五輪で金メダルを取るために――。加藤コーチと瀬戸はパリ五輪までの道のりを逆算し、基礎固めに専念してきた。「世界選手権に向けての練習はしていない」と瀬戸。直前まで厳しいトレーニングを積み重ね、スタート台に立った。
心技体がいつもと異なる状態での世界選手権。400メートル個人メドレー(6月18日)は6位と苦戦を強いられながらも、200メートル個人メドレーで今季自己ベストとなる1分56秒22の好タイムをマーク。瀬戸のプライドが垣間見えた瞬間だった。加藤コーチは「400は自然に任せたら全然ダメダメだった。その後の(200の予選までの)2日間で大也の本気パワーを引き出すことに全力を注いだ。大也は僕の本気に全力で応えてくれます。200の準決勝、決勝は最高でした」と一定の評価。その上で「あの泳ぎができればパリが見えます」と今後に期待を寄せた。
瀬戸に対して周囲から批判の声が聞かれることもある。ただ、それは百も承知。心を入れ替えて全てを競技にささげる今の瀬戸だったら、再び世界のトップに返り咲いてくれると信じている。
(五輪担当・中西崇太)












