体操界の〝Z問題〟が大きな波紋を広げている。W杯ドーハ大会でロシア代表のイワン・クリアク(20)がロシア軍の戦車に描かれている「Z」の文字をユニホームの胸元につけたことで批判が殺到。国際体操連盟(FIG)は第三者機関の「体操倫理財団」に判断を委ねているが、同選手はウクライナ選手による挑発行為があったと主張するなど事態は収まらない。そこでFIGの渡辺守成会長(63)を直撃。現場の実態と騒動の裏側に迫った。
――今の現場の状況を知りたい
渡辺会長(以下、渡辺)一番大きな被害を受けているのはウクライナの選手たち。彼らは爆撃の恐ろしさにおびえ、明日の命を神に祈っている。そしてロシア、ベラルーシの選手らは突然、戦争によって悪者になった。ロシアのヘッドコーチが「みんなが私たちを敵対視しているのでつらい」と切実に話していたのは印象的だった。
――かねて「選手に罪はない」と言ってきた
渡辺 今でもそれが原理原則だと思っているし、スポーツと政治は別物だと理解している。しかし、状況は変化した。政治もスポーツも国際社会という大きな塊の一部。だから世界全体がロシアとベラルーシに「NO」を突きつけた。それに、もし彼らが試合に出たらものすごいバッシングを受ける。会場へ向かう途中で襲われるかもしれない。だから私は戦争が終わるまで参加させないことに決めた。苦しい決断ではあった。
――その状況で〝Z騒動〟が起きた
渡辺 今、関係各所と話しているが、なぜ彼があのような行為をしたのかを調査する必要がある。選手自体が問題なのか、偏った情報、偏った教育を受けてやったのか、組織に指示されたのかも分からない。そのあたりの事実関係をしっかり把握することからだろう。
――今回の処分を決める「倫理財団」とは
渡辺 僕が会長に就任した時に「三権分立」を訴えて第三者機関をつくった。会長はスイスの元女性大統領のミシュリン・カルミー・レイ氏。他に弁護士がいて、役員は決まっているけど、担当するパネルはその事案ごとに変わる。今回はもちろんロシアやウクライナなど当該国は入らない。中立国の人たちでしっかりと話し合い、社会通念に照らし合わせて正しい判断をしてもらう。
――渡辺会長の意向も反映されないのか
渡辺 その通りだ。民主主義は三権分立が原則。立法は総会、行政はFIG、司法は体操倫理財団。それぞれが独立機関なのでFIG会長でも立ち入れない。それが私が作った三権分立だ。
――ロシアの選手も被害者という意見もある
渡辺 確かに、今回の戦争によってロシアの選手の人生に大きな影響が及んだのは事実。ただ、僕は(ロシア選手が)「被害者」というのは違うと思う。だって一番の被害者は誰がどう見てもウクライナの人たち。だから「被害者」という表現だけは使いたくない。
――まだゴタゴタは続きそうだ
渡辺 戦争だからアンノーマルなことが次々と起きる。それに今回はさまざまな人間の思惑が絡み合っている。ロシアへの敵対がある一方で、この際にロシアを叩けば自国の選手が有利になると考えて必要以上に叩く人だっている。そんな時、いちいち感情的になると新たな憎悪、余計な争いを生んでしまう。こういう時こそ一つひとつの現状を客観的に分析し、冷静にジャッジすることが大事だと思う。
【〝Z問題〟の経緯】ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、FIGはロシアとベラルーシの選手を7日以降の国際大会から除外することを決定。ロシア勢にとっては最後の出場試合となった5日のW杯ドーハ大会で騒動は起きた。
種目別平行棒3位となったロシアのクリアクは軍の戦車に描かれ「勝利」を意味する「Z」の文字を白いテープで胸元につくって表彰台に立った。すぐに世界中から批判が殺到し、FIGは第三者機関の体操倫理財団に処分を委ねた。
ロシアメディア「チャンピオナット」によると、クリアクは「自分の出身地を示したかった」「あのZマークは『勝利のため』『平和のため』を表している」と説明。その上で「ウクライナ選手たちから受けたひどい仕打ちを知ってほしい。彼らは国旗を身にまとって『ウクライナに栄光あれ』と叫んだ。ルールで禁止されていることを彼らはやった」と明かし、挑発が原因だったと主張している。
体操倫理財団は同選手やコーチ、ロシア体操協会らから事情聴取し、決定事項をFIG理事会に報告する。












