【取材の裏側 現場ノート】先日、ネット上で興味深い主張を見つけた。発言者はフィギュアスケート・羽生結弦(27=ANA)の大ファンと思われる人だが、堂々と「羽生結弦は冬の季語になり得る存在になった」と言い切っていた。
確かに日本の冬において、彼の名前を新聞やテレビで見聞きしない日はない。北京五輪開催中の今は連日のようにメディアをジャック。フィギュアスケートに詳しくなくても「羽生結弦」と聞くと、条件反射的に「冬」を感じる人も少なくないだろう。
以前、俳句誌「月刊ヘップバーン」を主宰していた俳人・黛まどか氏がトレンドを取り入れた新しい季語を提唱。その際に「サザン」「TUBE」を夏の季語、「ユーミン」「山下達郎」を冬の季語として「新歳時記」に載せるプロジェクトを行っていたという。
そこで記者は「羽生結弦を季語に!」を実現すべく、全国津々浦々の句会をしらみ潰しに当たってみた。すると「面白いですね」「非常にユニークな発想です」となかなか反応は良かったが、結論はいずれも「NO」。やはり世界トップのスケーターでも「季語」は不可能らしい。
そんな中、羽生の生まれ故郷の宮城・仙台市を拠点にする「仙臺俳句会」の小田島渚氏に尋ねると「季語は歳時記に載りますが、その生滅についてはそう簡単に言及できるものではありません」との前提に立った上で、懇切丁寧に実情を説明してくれた。
「例えば冬の季語には『スケート』や『スキー』がありますし、現在では誰も使わないような『菊枕』もあります。しかし、俳句で人物が季語となる場合は基本的に忌日(亡くなった日)です」
松尾芭蕉は旧暦10月12日で「芭蕉忌」や「時雨忌」、芥川龍之介は7月24日で「河童忌」などと詠まれる。また、英国人気バンド「ビートルズ」のジョン・レノンが亡くなった12月8日は「レノンの忌」として、すでに俳句で詠まれているという。
これらを踏まえ、小田島氏は「羽生選手が冬の季語になり得る存在という主張は、日本の代表的かつ普遍的な美である桜や月のような〝永久不滅の素晴らしい存在〟になったというたとえでしょう」と話した。実際に季語にならなくても、こういった議論が出ること自体が非凡な存在である証しだろう。
ちなみに、仙台市内の「川柳」の愛好会のメンバーは「冬になると『羽生結弦』が頻繁に出てきます。型に縛られない若い世代が多い句会なら、季語に賛同する動きもあるかもしれません」と話す。
北京五輪でも圧倒的注目を集めた羽生。国民栄誉賞も受賞した国民的ヒーローは近い将来、花鳥風月と並ぶ〝日本の美〟の象徴になるか。
(五輪担当・江川佳孝)












