苦労人が一発勝負で根性を見せた。ソフトバンク・奥村政稔投手(30)が29日のロッテ戦(京セラドーム)でプロ初先発。和田のコンディション不良で巡ってきたマウンドで、5回4安打1失点と好投した。チームが2―3で逆転負けを喫して勝ち星こそ付かなかったが、4年目右腕が存在感を放った。

 一心不乱に腕を振った。初回いきなり高部にソロを被弾して先制点を献上。それでも2回以降は気迫を前面に出して0を並べた。「一人ひとりを全力で抑えようと強い気持ちでマウンドに上がった。野手の方が(初回の攻撃で)すぐに逆転をしてくれて、そのリードを守って中継ぎ陣につなぐ最低限の仕事ができて良かった」。野球人生の崖っぷちで見せた意地の74球だった。

 大分・中津商から九州国際大に進学後に中退して三菱重工長崎入り。休部に伴い統合された三菱日立パワーシステムズを経て2018年ドラフト7位で入団した。妻子持ち、26歳でプロ入りした苦労人だった。

 1年目は12試合、2年目は5試合に救援。だが、昨季は一軍のマウンドに立つことすらなかった。この日が2年ぶりとなる一軍公式戦。昨季から先発に本格転向して、今季は二軍で15試合(先発10試合)に登板して6勝3敗、防御率3・14の成績を残し、ようやく巡ってきた待望の機会だった。

 奥村にとっては、今後の野球人生を左右する登板と言っても過言ではなかった。同い年の千賀が「オクはなかなかチャンスがないし、僕らは年も年。一発勝負でいい投球を見せてほしい」とエールを送っていたが、置かれた状況は奥村自身が一番理解していた。勝利投手の権利を得て後を託した今回の投球は、9月に控える11連戦を見据えれば十分アピールに値した。藤本監督も「しんどい中でよく頑張ってくれた。またチャンスあるんじゃないですか」と高評価。自力で道を切り開いたマウンドだった。

 6回に同期入団の甲斐野が同点を許してベンチに戻り、必死に悔しさを押し殺す姿を見つけると、笑みを浮かべて優しく背中をさすった奥村。「ずっと『すいません、すいません』と言いよったんで。自分も中継ぎの気持ちが分かる。甲斐野は同期やし。自主トレもずっと一緒にやっていたというのはあったんで」。苦労した分、人の痛みが分かる30歳が、投球も振る舞いも「一軍戦力」をアピールした。