2005年を最後に優勝から遠ざかっている阪神は、既に今季限りでの退任を表明している矢野燿大監督(53)の下でV奪回を目指す。あらゆる意味で舵取りの難しいシーズンとなりそうだが、本紙評論家の伊勢孝夫氏は「最後の1年だからこそ思いのまま采配を振るい、矢野遺産をチームに残してほしい」と提言。今こそ名将・野村克也氏の教えを肝に銘じるべきだと声を大にした。

【新IDアナライザー 伊勢孝夫】ここまでの阪神のオープン戦を見て、まず印象に残ったのは佐藤輝の状態の良さだ。実戦の場での力みが消え、ストライドが広がりすぎず、いいポイントで打球を捉えることができている。NPB記録の60本塁打をマークした2013年のバレンティンもそうだった。オープン戦で本塁打が出ていないが、じきに打球は上がってくる。今年の佐藤輝には、かなり期待できそうだ。

 逆に、来日2年目のロハスには悪い意味で目に付いた。広島との2連戦(8・9日、甲子園)では結果に恵まれたが、来日当初から課題だった内角球への対応にはまだ疑問が残る。ロハスと糸井が開幕左翼の本命と見られているようだが、個人的には若い島田らの起用を推したい。阪神が優勝を目指す上で、若手の台頭によるチーム力の底上げは不可欠だ。

 今年はキャンプイン前日に矢野監督が今季限りでの退任を表明した。それを今さらどうこう言うつもりはないが、どうせ最後だと思えば好きなようにやれるはず。当然ながら外国人選手やベテランへの配慮も無用だ。

 昨季で言うなら、6月下旬から7戦連続で勝ち星に見放されるなど不振に陥っていた西勇を最後まで先発ローテーションから外すことができなかった。実績のある投手だし、投げているうちに状態が上がってくれればとの思いもあったのだろうが、今年はベテランの復調を待っている時間的余裕もない。

 投打とも戦力が整っていても、長いシーズンの間にはイレギュラーな事態に見舞われる。直近では開幕先発枠の候補だったガンケルが腰の張りで出遅れることになった。首脳陣にとっては誤算だろうが、一方で当落線上にいた藤浪や新人左腕の桐敷には願ってもないチャンス。結果が伴えば、本人たちにも大きな自信になるはずだ。

 矢野監督にとっても恩師の一人である亡き野村克也さんは「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とする」と説いていた。まずは「人を遺す」ことを第一に考える。その思いは選手にも伝わるはずだし、かえって「有終の美」への近道かもしれない。(本紙評論家)