阪神が6日の巨人戦に6―2(7回降雨コールド)で勝ち、今季の甲子園開幕戦を飾った。

 投打がかみ合った完勝にも、矢野燿大監督(52)は「ジャイアンツでしたけど、いいスタートを切りたいということで勝ち切れてよかった」と冷静に振り返り「過去のことは…。今までより大事なのはこれからなので」と7勝3敗で開幕ダッシュを成功させたことにも目じりを下げることはなかった。目先の現象に一喜一憂しなくなったのは、試合中も同じ。矢野監督自身も采配のスタイルをシフトチェンジしつつある。

 試合展開での喜怒哀楽の頻度がそれを物語る。先月31日の広島戦。「あれはビッグプレーだった」と振り返った序盤のピンチを遊撃・山本のファインプレーで脱出したときだ。ベンチを飛び出し山本を迎えるナインや首脳陣と別に、右手で「矢野ガッツ」を見せた後は、盛り上がる現場からあえて距離を置くようにベンチ裏へ。一度、クールダウンしてから4回表の指揮にあたった。

 試合の分岐点のたびにベンチ裏へ消え〝ひと段落〟する姿は「監督が目の前のプレーに動揺を見せたら、必ずそれは周りの選手にも伝染する」とした、かつての中日・落合監督をほうふつとさせる。

 落合政権を知る中日関係者によると「落合監督はベンチ裏の監督室で、用意していたタオルでびしょ濡れになった全身と、帽子にへばりついた汗を拭きとってからベンチへと引き返し、再び何事もなかったかのようにベンチでどっかりと腰を落とし戦況を見つめていた」。そうした内に秘めて戦うスタイルを、矢野監督もマスターしようとしているわけだ。

 昨季の自らへの反省が動機となっているようで、昨オフ矢野監督はV逸が決定的となり、コロナウイルスの集団感染により、一軍メンバーが大量離脱した9月下旬からの1か月を「最もしんどかった」と振り返り「気がつけば、俺もベンチでうつむいてしまったりもしていた。顔を上げるようにはしていたんだけど…」と苦しかった胸の内を明かしている。

 同時に喜怒哀楽を常に出す習慣は、チーム状況がいい時期は問題ないが、悪い時はチームにマイナスに働くことを肌身で感じたのだろう。今季は基本方針は変わらずも試合中はほとんど〝仏顔〟を貫き、ナインと接するときも、一定の距離を保つようにしている。

 16年ぶりVへ向け、開幕早々から躍動するナインと同様、矢野監督も〝進化〟を見せた形態でタクトを振っている。