春の珍事か、実力か。阪神が開幕から3カードを終えて6勝3敗で首位に立っている。すでに2本塁打しているドラフト1位新人の佐藤輝明内野手(22)に開幕投手を務めた藤浪晋太郎(26)の復調など話題に事欠かず、新外国人のメル・ロハス・ジュニア外野手(30)と20勝のラウル・アルカンタラ投手(28)も遅ればせながら4日に来日した。今年こそ2005年以来のリーグVも夢ではないかもしれない。


 多くの虎党がスポーツ紙で勝敗表を見てはニヤニヤしているのではないだろうか。まだ3カードを終えただけとはいえ、5日現在で6勝3敗の首位。投手個人成績を見ても、2戦2勝のガンケルが防御率0・73で堂々のトップに立っている。6日からの本拠地・甲子園球場での巨人3連戦と、今週末のDeNA3連戦(横浜)の結果次第では頭ひとつ抜け出す可能性も高い。

 一体、何が変わったのか? 井上ヘッドコーチは「去年と何が違うと言えばベンチの雰囲気。誰かが流れをつくると『俺も、俺も』と、それぞれが置かれた立場で何か爪痕を残してやるんだという雰囲気がある」と話しているが、その原動力になっているのはベンチ入りのほぼ全員が有形無形の「あおり」にあっている点だろう。

 外国人選手も例外ではない。計8人が在籍する助っ人勢は2年目のサンズとマルテが要所での1発でチームをけん引し、ガンケルも先発で2勝しているが、一軍で安泰かといえばさにあらず。守護神のスアレスはさておき、3選手とも常に〝降格危機〟にさらされているのが現状だ。

 ともに昨年は韓国プロ野球で打撃二冠のロハスと20勝のアルカンタラが4日に来日。2週間の隔離措置を経てチームに合流予定だ。2選手は昨オフに他球団と争奪戦の末に獲得した経緯があり、それぞれの推定年俸(ロハスは2億6000万円でアルカンタラは2億600万円)からも状態に問題がなければ「必ず一度は一軍で使う」ことになるだろう。

 先発枠もハイレベル。開幕から「藤浪→青柳→ガンケル→西勇→伊藤将→秋山」で回るローテーションは全試合で全員が5回以上の責任投球回を投げ切り、いわゆる「背信投球」はない。6回を自責3点以内のQS(クオリティ・スタート)を達成した投手が9試合で6人と抜群の安定感を誇っている。しかし二軍では先月30日に日米通算96勝のベテラン助っ人左腕・チェンが6回1失点、2年目の成長株・西純が2日に7回1失点とアピールしてチャンスを伺っており、うかうかしていられない。

 昨季までレギュラーで慣らした糸原、木浪の二遊間コンビ、近本、大山の主力勢もしかり。ルーキーの中野は途中出場中心ながら8打数4安打で打率5割。オフに金銭トレードで巨人から加入した山本も3日の中日戦でサヨナラ打を放つなど存在感を見せている。主将・大山の〝背後〟には本来は三塁が本職の佐藤輝がおり、攻守で昨年以上の活躍を見せなければ取って代わられても不思議ではない。2年連続盗塁王の近本も打率1割台と調子が上がってこないと見るや、3日の中日戦では一打サヨナラの好機に陽川が代打に送られた。

 矢野監督が「総合力が今年のチームの売り」と口にできるのは、チーム内に幾重にも競争原理を張り巡らせることができたからだろう。首位争いから簡単には転げ落ちないチーム編成の工夫は、試合に出るナインの緊張感と危機意識にもつながっている。