広島は11日、海外FA権を保有する長野久義外野手(34)とマツダスタジアム内の球団事務所で残留に向けた初交渉を行った。交渉役の鈴木球団本部長は「ウチで楽しい野球生活を送ろうよ」と呼びかけたが、この日は結論が出ず。両者は今後も話し合いを重ねる見込みとなった。佐々岡新監督も残留を願うなか、まさか1年で赤チョーノ流出となってしまうのか…。

 今オフの広島は忙しい。新監督が誕生し、会沢の残留が決まっても、まだまだ仕事は残っている。今季新たに国内FA権を取得しポスティングでのメジャー挑戦を希望している菊池涼、同じく国内FA権を得た野村はまだ態度を保留している。加えて海外FA権を保有する長野がいる。

 丸の巨人移籍に伴う人的補償として今季から広島に加わった長野だが、すでに保有する権利を行使すれば、今オフの他球団移籍はルール上は可能。そのため鯉党の間ではシーズン中から「巨人に戻ってしまうのでは…」と心配の声が尽きなかった。

 ファンの関心の高さは球団も承知している。だからこそ動きは素早かった。この日の交渉では答えは出なかったが、鈴木本部長は「これから時間をかけて話をしよう、と。今日はお互いに考えていることを話した」とし、今後も交渉を重ねていくとした。佐々岡新監督も7日の就任直後に長野に電話をかけ「力が必要だ」と直々に慰留している。ただ本人は感謝の意を示しつつ、まだ態度は明らかにしていない。

「一緒に戦おうな!」という鈴木本部長の声に、この日はほほ笑みを返して帰りのタクシーへ乗り込んだ長野。沈黙の背景にあるのは「選手である以上、試合に出たい」という出場機会への飢えだ。

 移籍1年目の今季はプロ入り後最少の72試合出場にとどまり、慣れない代打稼業や2か月近くの屈辱的な二軍塩漬け生活を経験した。8月末に一軍昇格後は本領を発揮して終盤の打線を支えたが、ベンチの起用法に翻弄された面は否めなかった。その点については、鈴木本部長も「彼はずっと一軍にいる選手。代打で1打席というタイプじゃない」と理解を示した。

 では現実的に今オフの広島退団があるかといえば、現状その可能性は高くはないだろう。ましてやちまたで噂されるような巨人復帰はあり得ない。周囲には戻る意思も約束もないとキッパリ伝えている。G党の中には悲しむ向きもあろうが、そうした長野の覚悟も伝わり、むしろカープとの関係性は深まっている印象だ。

 今後は残留を基本線に、どこまで両者が歩み寄れるか。胸襟を開いた交渉で、スッキリした答えが出るのを待ちたい。