【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】今季で37歳を迎えるとあってベテランの風格も漂っている。加えて米球界経験者でもあり、外国人助っ人風な雰囲気さえある。巨人・中島宏之内野手(36)のことだが、前カードの24日、広島戦(東京ドーム)では一岡から頭部死球を受け激怒。乱闘寸前、一触即発の場面の中心にいた。だが、このコワモテキャラを素直に信用してはいけない。実はナカジ流の脅しのテクが随所に込められているからだ。

 かつて西武時代、一緒にプレーした後輩たちには「キレると止められない」と武闘派であった証言もある。2011年のオリックス戦(西武ドーム)では高宮から死球を受け、この時もマウンドに詰め寄り両軍もみ合いとなった。試合後には「今年中にやり返したるから」とコメント。不穏な空気を醸し出し、この年の同カードは遺恨ムードが漂い続けた。

 しかし、変化が見えたのは日本球界復帰後だ。米球界を経て15年にオリックス入り。その翌年、16年9月21日の西武戦(京セラ)では名演技を見せた。同点の8回、牧田(現パドレス傘下マイナー)が一死からT―岡田に死球。続く中島には3球連続内角攻めで、脇腹に死球を与えた。ダボっとした着こなしのユニホームに当たったように見えたが、中島はここでも激高。両軍ベンチから選手が一斉に飛び出した。結果的にこの後、チームは勝ち越しに成功し試合にも勝利した。

 当時、試合後にも「役者やったでしょ」とコメントしていた。さらに、改めて取材したところ「僕もええオトナですよ。あんなん演技っすよ。牧田も元チームメートやし、怒ってるわけない。ああすることで、味方に対する内角攻めも甘くなるかもしれないし、作戦ですよ」とニンマリしていた。年齢を重ねた“アダルトナカジ”はなかなか侮れない。

 西武で背番号3番、巨人で5番を背負った大先輩の清原氏は歴代最多の196死球を受けた。実は中島も同9位の134個とすでにレジェンドの域に達している。怒りの演技が威嚇と捉えられ、さらなる死球禍につながらなければいいのだが…。Gに入ってはGに従えではないが、死球にもまったく怒らない紳士なナカジもいつかは見てみたい。

 ☆ようじ・ひでき 1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。