阪神の背後に、90年分の〝虎ウマ〟が忍び寄ってきた。12日の巨人戦(東京ドーム)は0―1で完封負け。相手先発・竹丸を最後まで攻略できず4連敗を喫し、8月終了時点で4・5ゲームまで広がっていた2位・橋上Gとの差は、ついに0・5まで縮まった。

 優勝マジック17は依然として点灯中。消化試合数を考えても、阪神が優位な立場にあることは変わらない。それでも何やら不気味なのは、球団90年の歴史を振り返ってみると、今季のような状況を虎がほとんど〝乗り越えられてない〟ことだ。

 阪神は2リーグ制以降、7度のリーグ優勝を果たしているが、連覇は1度もない。しかも阪神が1位、巨人が2位でシーズンを終えたケースも皆無。宿敵と秋の鉄火場で競り合い、その追撃を振り切って頂点に立った成功体験がない…。

 さらに虎党の胸をザワつかせるのが「秋」の記憶だ。13ゲーム差をひっくり返された2008年を筆頭に、10年は終盤まで優勝を争いながら中日に1ゲーム差で屈し、21年も前半戦を首位で折り返しながら秋にヤクルトの猛追を許してV逸。虎の歴史には勝負どころの9月以降に「あれ…、なんか変やな…」と歯車が狂ったシーズンが何度も刻まれている。

「栄光の巨人軍」と呼ばれる宿敵とは対照的に、虎党歴が長い人ほど華々しい思い出よりも苦い記憶の方が圧倒的に多い。球団史とは年表というより、時として古傷のカルテ。秋風が吹けば昔の傷までうずき出す。

 優勝する時の虎も、近年は競り勝つより突き放す形が多かった。1985は2位に7ゲーム差、03年は14・5差、05年は10差、23年は11・5差、昨季も13差――。巨人と鼻先を並べ、1勝の重みが胃袋に響くような秋を勝ち切るのは、まさに未知の領域となる。

 だからこそ、歴史を塗りつぶすなら今季しかない。佐藤、森下、大山らを擁するリーグ屈指の打線に先発、中継ぎともに厚みのある投手陣。球団史を見渡しても「史上最強」と評して大げさではないほど、投打の戦力は整っている。史上初の連覇を果たし、巨人を2位に従えて優勝する――。90年分積もった〝虎ウマ〟をまとめて成仏させるには、これ以上ない戦力だ。

 背後に迫るオレンジ色の影を振り切れるか。それともまた古傷を1枚増やすのか。藤川虎は今、過去の阪神が勝ったことのない「秋」と戦っている。