人は見かけによらない――。今夏のトレード市場を騒がせ、今やドジャースの一員となったタリク・スクバル投手(29)は、マウンドでは近寄りがたいほどの迫力を漂わせるメジャー屈指の左腕。だが、その素顔は意外なほど気さくだった。米国で取材を続ける青池奈津子氏が、取材現場で垣間見た2年連続サイ・ヤング賞剛腕の人柄と知られざる一面を「メジャー通信」でつづる。

【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】一見話しかけにくそうなのに、いざ話してみたら意外にも気さくだった人――。周りにいないだろうか。この夏、トレード市場で最も注目を集めたタリク・スクバルが、まさにそんな人だった。

 7月半ば、エンゼルス戦で遠征中のタイガースのクラブハウスに入ると、タリクの周りには人だかりができていた。当時は、まだタイガースの一員だった。さすがは時の人。話し疲れているかもしれない彼を、さらに引き留めるのは野暮(やぼ)だと思った。

 ただ、普段の囲み取材とは少し様子が違う。タリクは椅子に腰掛け、記者たちも適度に間隔を空けて緩い円を描いている。取材というより雑談に近かった。20分ほどたち、記者の輪がなくなっても、タリクはロッカー前でいつでも話しかけられそうな様子で座っていた。

 そういえば春のWBCでも、多くの米国代表選手をつかまえるのに苦労する中、タリクはよく取材に応じていた。真剣な顔つきから勝手に近寄りがたいと思っていただけで、実はかなりオープンな人なのではないか。

 その印象を伝えると、フッと笑った。

「昔からこうだったわけじゃないよ。キャリアの初めの頃はすごく引っ込み思案で、自分の考えをどう言葉にすればいいのか、何を話せばいいのかもよく分からなかった」

今春のWBCにも米代表として出場したスクバル(ロイター)
今春のWBCにも米代表として出場したスクバル(ロイター)

 小さな学校からドラフト9巡目でプロ入り。メディア対応の経験もほぼなく、2020年のコロナ禍でメジャーデビューした。

「試合も普通ではなかったし、チームメートと交流することさえできなかった。メジャーに上がる環境としては、かなり厳しかったと思う」

 時間とともに緊張は薄れ、プレーへの自信とともに自分らしく振る舞えるようになったという。

 トレードの話題についても「気にならないとは言わない。ただ、それでフィールド上の自分が影響を受けることは許されない」と言い切った。

 ただ、2つの条件を除いては――。

「おなかがすいている時と、あまり眠れなかった時。子供の頃から空腹だと、たいてい機嫌が悪くなる。妻に聞けば分かるよ」

 毎晩9~10時間眠るのが理想で、この日はしっかり10時間。隣で聞いていた記者が「10時間も寝る方が難しい」と漏らすと「睡眠にも訓練が必要だよ」と笑った。

「僕は音にすごく敏感なんだけど、子供たちが大きくなって自分の部屋で寝るようになったら、今度は静かすぎて眠れなくなった。それまでホワイトノイズをつけて一緒に寝ていたから、僕の方がそれなしでは眠れなくなったんだ。夜中に電源が落ちて音が止まると、目が覚めるくらい。でも、つけ直した途端にまた眠れる。不思議だよ」

 周囲の雑音はきれいに遮断できるのに、眠る時だけは少し音がないと落ち着かないエース。ある程度の雑音もまた、人生にはつきものなのかもしれない。

 ☆タリク・スクバル 1996年11月20日生まれ、米カリフォルニア州出身。シアトル大から2018年ドラフト9巡目でタイガース入り。20年8月にメジャーデビュー。24年は投手3冠を達成し、ア・リーグのサイ・ヤング賞を満票で初受賞。25年も同賞に輝き、2年連続受賞を果たした。26年8月にトレードでドジャースへ移籍。メジャー屈指の左腕として今夏の移籍市場で最大級の注目を集めた。190センチ、109キロ。