華やかな球宴の舞台裏で、指揮官はサインペンを握りながら「全員を主役にする」という難題と格闘していた。米老舗紙「ニューヨーク・タイムズ」傘下のスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」は13日(日本時間14日)、14日(同15日)に米ペンシルベニア州フィラデルフィアのシチズンズ・バンク・パークで行われるMLBオールスター戦で、ナ・リーグを率いるドジャースのデーブ・ロバーツ監督(54)の前日の一日に密着。華やかな祭典を動かす指揮官とコーチ陣の知られざる奮闘を伝えた。

 ロバーツ監督は13日午後1時前に球場入り。監督室の机では、8箱に収められた約100個のボールが待ち構えていた。球宴出場者がサインし、MLBがオークションや慈善事業に活用する記念球だ。監督用に空けておくのが暗黙のルールとされる場所のすぐ近くには、ドジャースの山本由伸投手(27)のサインがあった。指揮官は「おいおい、山本。もっと分別を持つべきだ」と冗談交じりに苦笑したという。山本は11日(同12日)に先発したため球宴では登板しないが、思わぬ形で存在感を発揮した。

 もっとも、指揮官に笑ってばかりいる暇はない。先発メンバーはファン投票で決まっていた一方、打順は左打者が7人も選ばれたことで難航。ロバーツ監督は前夜、ベンチコーチと機内で最終案を固めた。先発投手には地元フィリーズのクリストファー・サンチェス投手(29)を指名。「これはファンのためのもの。地元の選手を先発させることが最高の体験につながる」と、開催地への敬意を最優先した。

 より難しいのが選手交代だ。野手は21人。多くが1、2打席を希望する中、地元フィリーズ勢に十分な出場機会を与えつつ、他球団のスターも9回まで待たせず起用しなければならない。実績、球宴出場回数、キャリアの現在地まで考慮し、全員が納得できる着地点を探る必要がある。

 投手起用も綱渡りだった。ドジャースの投手コーチ陣は各球団と連絡を取り、登板可否や投球数の制限を確認。9イニングをつなげる投手は9人しかおらず、1人の想定外が全体の青写真を崩しかねない。先発、救援の両方をこなせる投手まで待機させ、あらゆる展開に備えた。

 ロバーツ監督は記者会見、MLBネットワークやFOXの取材、選手との交流をこなし、午後6時前にようやく監督室へ戻った。それでも残っていたのは、最終的な選手交代の確認とサインを終えていないボール。球宴監督は単なる名誉職ではない。スター軍団の希望と球団側の事情、ファンの期待を同時にさばく〝総合プロデューサー〟なのである。