〝別れの白星〟はエースによる事実上の「正捕手育成コーチ兼任」宣言でもあった。DeNAは12日の中日戦(横浜)に3―1で勝利した。先発した東克樹投手(30)が6回2安打無失点の力投で今季4勝目。試合前には山本祐大捕手(27)とソフトバンク・尾形崇斗投手(26)、井上朋也内野手(23)のトレード成立が電撃発表され、球場に衝撃が走った。2023年に最優秀バッテリー賞を受賞した名コンビが突然解体された一日。それでも左腕はマウンドで揺れなかった。

 試合後、東は「正直驚いたが、この世界では全然あり得ることなので、大きな動揺はなかった。しっかり試合に入れた」と冷静に振り返った。言葉だけではない。この日、許した安打はわずか2本。5回に安打と内野ゴロで二死二塁のピンチを背負ったが、後続を二ゴロに仕留めて無失点。6回も三者凡退で締め、山本との別れに沈みかねないチームを引き締めた。「ボール先行でフルカウントになる場面が多かったが、粘ることができた。なんとか自分らしい投球ができた」。女房役を失った直後でも、エースの仕事は変わらない。感傷を胸の奥にしまい込み、白星という形で現実に答えを出した。

名コンビだった東克樹(左)と山本祐大(4月3日の巨人戦)
名コンビだった東克樹(左)と山本祐大(4月3日の巨人戦)

 視線は早くも次の時代へ向いている。東が名前を挙げたのはバッテリーを組み、自らの好投も導いたプロ4年目・松尾汐恩捕手(21)だった。松尾は打でも2回に先制適時打を放つなど3打数2安打。攻守で期待にこたえた。22年ドラフト1位で入団し、昨季は自己最多77試合に出場した正捕手候補に対し、東は「次は僕が汐恩を育てる番だっていう思いでマウンドに上がりました」と明かした。

 覚悟はさらに踏み込んだ。「やっぱり汐恩が独り立ちして、引っ張っていかないと優勝はないと思う。彼にとってはいいチャンス、成長のきっかけ」と期待を込め、「どっしり構えて、キャッチャーらしい性格であったり、人間性であったり、そういったものを含めて成長してもらいたい」と注文も添えた。

 もはや単なるエースの激励ではない。山本ロスを白星で封印した左腕は、事実上の育成コーチ役まで背負い込む覚悟を示した。DeNAの扇の要争いは、東の言葉を号砲に一気に熱を帯びる。