北朝鮮から興味深いシグナルが送られてきた。

 金正恩朝鮮労働党総書記の妹・金与正党総務部長が3月23日、高市早苗首相が米国での日米首脳会談(米東部時間同月19日、日本時間20日)で日朝首脳会談の実現に意欲を示したことに関する談話を発表した。日本の新聞は、この談話を北朝鮮が高市政権と対話する意志がないことを表明したものと見なしているが、筆者の見方は異なる。

 北朝鮮には「求愛を恫喝で示す」という独自の外交文化がある。小学生の悪ガキが、好意を寄せる女の子に「お前なんか大嫌いだ。俺のことをジロジロ見るな」と言うようなものだ。

 まず、日米首脳会談から行われた3日後にこの談話が出されたことだ。北朝鮮は本件に関して熟慮した上で金与正氏という高いレベルで反応することを決めたのだと思う。この談話では、仮定法が用いられている。具体的には、「日本首相がわれわれが認めたこともない自分らの一方的議題を解決してみるというものなら」(3月23日「朝鮮中央通信」日本語版)という表現だ。

 論理的には、「日本首相がわれわれが認めたこともない自分らの一方的議題を解決してみるという議題を設定しないならば、首脳会談はありうる」ということになる。日米首脳会談では、北朝鮮による拉致問題も議題になった。にもかかわらず金与正氏の談話に日米が「拉致」という言葉を使ったことを非難した箇所はない。これも、これまでになかった対応だ。

 さらに興味深いのは、金与正氏が、「徹底的に個人的な立場ではあるが、私は日本首相が平壌に来る光景を見たくない」と述べているが、「高市早苗」という固有名詞をあげていない。高市早苗氏という人間を忌避しているわけではないという意味だ。「あんたなんか見たくない。うちには絶対に遊びに来ないで」という表現で、思いを寄せる高市早苗氏への感情を金与正氏は表現しているのだ。日本政府は金与正氏からのシグナルに反応した方がいいと思う。

 高市氏が日朝関係を動かしたいと考えているならば、無条件での日朝首脳会談を提案すればいい。無条件なので、高市氏は当然、会談の場で拉致問題を含むあらゆる問題を提起することができる。