侍ジャパンが2年連続4度目の世界一へ向け、最終局面に入る。第6回WBC準々決勝(14日=日本時間15日、ローンデポ・パーク)で、日本は初対戦となるベネズエラと激突する。大谷翔平(31=ドジャース)を軸にした戦いに再び注目が集まる一方、今大会ではもう一つの「異変」も浮上した。WBC中継が地上波から消え、配信サービスが主戦場となったことだ。しかも、この流れは一過性ではない。次回大会でも、大谷の勇姿が地上波から「消滅」する危機さえ指摘され始めている――。
今回のWBCは、開幕前まで「前回ほど盛り上がらないのではないか」ともささやかれていた。実際に23年大会のような社会現象級の熱狂には、現時点で届いていない。背景の一つにあったのが、中継環境の激変だ。今大会の日本国内向け配信はネットフリックスが全47試合を独占。放映権料は約150億円とされ、前回水準から大きく跳ね上がった。地上波で当然のように見られた時代の延長線上でWBCを語れなくなったことが、開幕前の不安や戸惑いを膨らませた。
もっとも、ふたを開ければ大会そのものの吸引力はなお強い。日本は台湾戦(6日)で大勝し、大谷は満塁弾を含む5打点。韓国戦(7日)でも一発を放ち、3戦目のオーストラリア戦(8日)もチームは競り勝って1次ラウンドC組首位通過を決めた。
前回大会のように、栗山英樹前監督(64=日本ハムチーフ・ベースボール・オフィサー)と大谷の師弟物語や、日本国籍を持たずに代表入りしたラーズ・ヌートバー外野手(28=カージナルス)のような新鮮な異色性が今大会に薄いのは確かだ。それでも大谷という圧倒的な核が打線の真ん中にいるだけで、世間の視線は再び侍ジャパンへ引き寄せられる。今大会は「熱狂の絶対量」では前回に及ばなくても、「見る価値」そのものが損なわれたわけではないことを証明している。
ただし、放映権ビジネスの地殻変動は止まらない。米動画配信大手「ネットフリックス」は今回、日本で初めて本格的な大型ライブスポーツ案件としてWBCを抱え込んだ。さらにMLB、NPB両関係者のみならず、放送業界の間でも「今回のWBCで加入効果や広告価値の手応えをつかめば、30年開催と見込まれる次回大会でもネット配信勢が攻勢を強める」との見方が強い。
ネットフリックスだけではない。アマゾンなど他のグローバル配信事業者が、今後の国際野球コンテンツを有力商材として狙う構図も十分にあり得る。放映権料がさらに上がれば、日本の地上波局が単独で太刀打ちするのは一段と難しくなる。
そして視線の先には、28年ロサンゼルス五輪がある。野球・ソフトボールは同大会で復活が決まっており、MLBと選手会はメジャー選手派遣へ向けた調整を進めている。ドジャースの本拠地と同じロサンゼルスという背景もあり、大谷が再び侍ジャパンの一員として五輪の舞台に立つ期待は膨らむ。一方で日程調整、保険負担、開催地、球宴との兼ね合いなど未解決の論点はなお多い。それでも「機構側、オーナー側、選手会側ともロス五輪参加を何とか実現させたい方向で大筋一致している」(MLB関係者)との見方は強い。
国際オリンピック委員会(IOC)は五輪の全メディア権を保有し、日本でもジャパンコンソーシアム(NHK+民放連)が26~32年の4大会分の権利を取得済みだが、業界内では「ロス五輪ではIOCがWBSC(世界野球ソフトボール連盟)と〝共謀〟する形で野球だけ切り売りを図り、別枠の争奪戦が起きるのではないか」との怪情報まで飛び交う。真偽はともかく、それだけ配信大手への警戒感が強まっている証左だろう。
次回WBC、そしてロサンゼルス五輪へ。配信大手が参戦する権利ビジネスは、さらに過熱していく可能性が高い。かつて国民的スターの活躍は地上波が広く届けるものだった。だが、その常識はもう盤石ではない。大谷を「誰でも無料で見られる」時代は、静かに終わりへ向かっている。












