【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】「初めて練習場に行った日にね、15歳の男の子相手に5回も負けたんだ、5分とかからずに。だから、うまくなりたいと思った」

 イバン・ヘレラとの会話は、趣味のMMA(総合格闘技)の話から始まった。パナマ出身のイバン。17歳でプロ入りし、単身でドミニカ共和国のルーキーリーグからはい上がってきたゆえか、年齢以上に大人びた貫禄を持ち合わせている。

 その彼がUFCを見て自分も格闘技をやってみたいと、友人の紹介でトレーニングに参加したのが約4年前。中学生相手にまるで歯が立たなかった悔しさが、彼をかき立てた。

「やればやるほど、この競技はテクニックが大事なのが分かってくる。そのためには練習あるのみ。僕は練習するのが好きなんだ。これなら楽しいから毎日できるなって」

 もちろん、野球がメインなのでケガのリスクは最小限に抑え、彼が「ストライキング」と呼ぶキックやパンチなどのいわゆる打撃練習は少なめで、基本は寝技など柔術中心のトレーニングだ。

「大会に出るつもりはないよ。やったら腕が折れちゃう。でも、精神的強さを求められるところが好きなんだ。鍛錬をやめたら負け。だけど負けたくない。だから練習する」

 ちなみに、近年スマートな体格が増えた野球界で、イバンはガタイがいい。野球選手で格闘技をやる人は珍しいものの、彼がMMAを趣味にしているのは、ある意味とても納得だった。

 矛盾して聞こえたのは「コテンパンにやられるのが楽しい。もっと練習しなきゃって気になるから」という言葉だった。負けることに喜びを見いだすなんて、相当な〝マゾ〟である。その〝ナゾ〟はすぐに解けた。

「僕ね、16歳まで太ってたんだ。当時は週末になるといつも家族でピザ。14スライス食べてコーラを飲んでた」

 パナマの野球青年らは、16歳になると国際FA制度でプロと契約ができる。15歳前後から就学時間を短縮し、野球中心の生活に切り替える選手も少なくない。イバンもその一人で、学校は毎日2時間だけ。残りは野球漬けの日々だった。

「7月2日が初めて契約できる日だったんだけど、すごく準備したのに契約してもらえなかった。『太っているから、実力があるように思えない』と体形を言い訳にされたんだ。打てるのに体形ばかりを言われるから、もう野球をやめようかと思った」

 でも、負けたくない。16歳のイバンが出した答えは「なら、もっと練習してやる」だった。そのためには毎朝4時15分のバスに乗る必要があったが、通い続けた。人間、集中力が高まると余分なものがそぎ落とされていく。イバンの体重も、集中力が増した分だけ落ちていった。

 翌年、イバンは見事に契約を手にする。だがそれは〝体重が落ちた〟からではない。10代で親元を離れる中南米の選手などは、野球の実力と同時に「勤勉さ」も見られるという。まだ発展途上であるため、途中で投げ出さない精神力が必要なのだ。見た目が変わったことより、諦めずに努力した〝姿勢〟こそが評価されたのだ。

 副産物は「ジムとトレーニングが好きになっていたこと。練習した分だけうまくなるのが楽しくて仕方なかった」。この成功体験がイバンの軸となった。何かを成し遂げたかったら「練習するしかない」。きっと今ごろも、柔術の特訓で汗を流しているんだろうな。

 ☆イバン・ヘレラ 2000年6月1日生まれ、パナマ共和国出身。16年7月にドラフト対象外のアマチュア・フリーエージェントでカージナルス入り。22年5月にメジャーデビュー。出場機会を徐々に増やし、昨季はキャリア最多の107試合に出場。打率2割8分4厘、19本塁打、66打点と躍進し、4月のエンゼルス戦では捕手として球団史上初となる1試合3本塁打を記録した。180センチ、100キロ。