ミスターは最高の偉人であり、エンターテイナーだった。3日に89歳でこの世を去った巨人軍終身名誉監督・長嶋茂雄さんについて、生前に現場で幾度となく取材を重ねていたスポーツライター・楊枝秀基氏が極上エピソードを公開。凡人には理解し難い「長嶋語録」を、とくとご覧あれ――。

事件を受け、公園で会見する長嶋茂雄さん(02年8月)
事件を受け、公園で会見する長嶋茂雄さん(02年8月)

 長嶋茂雄さんと初めてお会いしたのは記者1年目の1998年4月、東京ドームだった。ベテラン記者に伴われ「長嶋監督だぞ。あいさつさせてもらえ」と促されながら名刺を手渡すと「便乗ですか?」と斜めから過ぎるツッコミをいただき、オロオロするばかりで気の利いた返しなどできなかった。

「じゃ、よろしく~」。さわやかにグラウンドへと出陣していったミスター。どうやら「先輩に便乗しなきゃあいさつもできないのかい。ボーイ」という意味合いだったようだ。若手の頃の僕には、ハードルが高過ぎた。幼少期から虎党だった僕ではあるが、その圧倒的なオーラによって“一撃”で長嶋ファンになってしまった。

 新米だった僕は長嶋監督に関係する人々にはとりあえず声を掛け、エピソードを聞きまくった。そこで感じたのは長嶋氏が「ギブ」の人だという事実だ。とにかく「与える」から人望が厚い。皆さんから話を聞けば聞くほど、人々に何かを与える人物だったことを確信する。

 長嶋監督の身の回りに関わる仕事をしていた人物に「ミスターからいただいた最も高価なものは何ですか?」と軽く質問したところ「それは今、住まわせてもらっている自宅ですね」と即答。詳しい住所や価格こそ分からないが、とんでもない話にたまげた。

 ミスターを結婚式に招待した関係者、あるいはその周辺の関係者に取材すると、ご祝儀袋に100万円もの現金が封入されていたこともわかった。諸事情で2度も結婚式にミスターを招待した人物を知っているが、恐ろしいことに2度目のご祝儀も同額だったらしい。

 巨人OBの某氏によると、シーズンオフに9人3組ほどの小規模なゴルフコンペの幹事をミスターから命じられたという。オフでもあり、料金も低めとはいえプレー費と懇親会、賞品など合計で1人あたり「3万円」ほどのコンペを設定したそうだ。

 すると「そんな30円のコンペなんてダメ。50円くらいしないと失礼。私が用意するんだから遠慮しちゃダメじゃないか」と叱責されたらしい。ここで違和感を覚えた人も多いかと思うが、ミスターは1万円を1円ということがあるそうだ。つまり、景気良く50万円使いなさいと怒られた裏話。国民的スターの金銭感覚は、まさに恐るべしだ。

 ちなみに自らが出演していたCMは、ホームセキュリティー大手の「セコム」。自宅にもしっかり設置していたのだが、包丁を持った見知らぬ男が勝手口から侵入するという事件もあった。そして、その際にスイッチを入れ忘れていたようで「ミスター、セコムしてなかった」などと騒がれたこともつい最近のようだ。事件直後に応じた当時の囲み取材では長嶋さんが、報道陣の前で白い歯をのぞかせながら「ええ、泥棒さんがお見えになりまして」と答えていたことも“伝説”となっている。

 一言一句が面白い上に味わい深く、コミカルでダンディー。本来ならば僕などが語れるような立場ではありませんでしたが、少しでも関われただけで光栄です。合掌。