第105回全国高校野球選手権大会(甲子園)は23日に決勝が行われ、慶応(神奈川)が連覇を狙った仙台育英(宮城)を8―2で下し、最長ブランクを大幅更新する107年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。自主性と多様性を重視し、自由な髪形が世間に好印象を与えるなど新風を吹かせた〝慶応ボーイズ〟。旧体質の高校野球界に一石を投じてきた森林貴彦監督(50)には、勝たなければならない理由があった。

 高い志と理想を掲げ、信条の「エンジョイ・ベースボール」で勝ち切った。相手は前回王者。前評判を覆し、圧倒する慶応ナインには新時代開拓の使命感すら漂っていた。

 試合は三塁側アルプス席に陣取った大応援団の声援を受けた1番・丸田(3年)が大会史上初の初回先頭打者弾で華々しく幕を開けた。2回にも丸田の適時打で1点を追加。相手の焦りと動揺を誘った。5回には丸田が放った左中間への飛球を中堅手と左翼手が交錯して落球。普段の仙台育英には見られないミスも絡み、大量5点を奪って突き離した。守っては鈴木と小宅(ともに2年)の継投で反撃を2点にとどめ、今春の選抜大会で敗れた借りを返す会心の勝利で、深紅の大優勝旗を手にした。

 試合直後の優勝監督インタビュー。男泣きの指揮官の言葉に大会制覇の意義が込められていた。「ウチが優勝することで、高校野球の新たな可能性とか多様性とか、何か示せればいいなと思って日本一を目指して、常識を覆すという目的に向けて頑張ってきた。この優勝から何か新しいものが生まれてくるものがあれば、それはうれしく思う。ウチの優勝だけでなく、高校野球の新しい姿につながるような勝利だったんじゃないかなと思う」。勝つことがすべてではないが、勝つことで世論を巻き込み前進するものがある。

 常識を疑う。改革には痛みが伴う。指揮官がよく口にする言葉だ。高校野球をより良くするためなら、忌憚(きたん)なく意見する。加速度的に進む温暖化による環境変化に対応し、持続可能な甲子園に目を向けている。「昼の一番暑い時間を避けるというのは〝大改革〟ではなく〝中改革〟くらいでいける現実的な選択肢」と話題の朝夕2部制に賛同し「変えていくということは、結局どこかで負担が増える。痛みを共有しながら、分散しながら、より良く変えていくべき」と腹をくくった施策を促す。

 明確な信念があるから、ひるむことなく考えを発信する。高校野球の聖地と言えば甲子園。その概念をも打ち破ろうとしている。

「甲子園を聖地化しすぎるのはどうなのか。私としては全国大会はあってほしいけど、甲子園じゃなきゃいけないとは思っていない。宗教なら聖地があって、それを大切にしなければならないが、高校野球は別に宗教ではない。現実を見ながら変えていくということはあっていい」

 もちろん、ドーム化や分散開催に移行するとなれば現実的に課題山積なのは百も承知。だが「選手のパフォーマンスをちゃんと引き出すという意味では、この夏の甲子園というのはかなりマイナスな部分が大きい」と選手ファーストを貫き、伝統の踏襲や〝できない一辺倒〟で思考停止に陥ることを良しとしない。

 選手も、甲子園を愛するファンも世代は移ろい、転換期を迎えている。同じ言葉でも語る者によって響く範囲は違う。土を耕し、種はまいた。インパクトを残し、勝ち切った意味は大きい。