“大谷旋風”が球界の地殻変動を生み出すか――。第5回WBCで侍ジャパンが世界一、大谷翔平投手がMVPに輝いた。その熱狂を追い風に、いよいよ日本のプロ野球が開幕する。人気再燃が期待される一方、議論されそうなのが「球界拡張」への動きだ。ファーム拡大が先んじて報じられたなか、16球団構想に注目し、候補地の一つ「新潟」にフォーカス。するとプロ球団設立の悲願とともに、隠された“もう一つのドラマ”が浮き彫りになった。
当時の安倍晋三首相がアベノミクス成長戦略の一つに「プロ野球16球団構想」を盛り込んだのは2014年のこと。20年1月にはソフトバンク王会長の「あと4チームが誕生してほしい」の発言で再浮上した。昨年11月のオーナー会議ではファームのリーグ拡大構想が承認されるなど、再び議論されつつある。
候補地に挙げられていたのは新潟市、静岡市、松山市、沖縄県の4自治体だが、壮大な計画を進めているのが新潟市だ。「日本海ドームシティプロジェクト」と題し、巨大ドームを30年に建設、プロ野球球団を招致する計画で、官民一体の取り組みを目指している。
新潟の野球に対する熱量は高い。幾度となくNPB球団の誘致が模索され、DeNAがベイスターズを買収した際も新潟に本拠地移転か、とも報じられたが、その熱はついにドームと新球団設立へと集約された。
昨年10月にはプロ野球OBによる野球日本伝来150年の記念試合を開催。3月23日には「日本プロ野球OBクラブ」を協力団体に加え、同プロジェクトの「新潟市民の会」が設立された。
発起人の一人でプロジェクトの理事も務める新潟県野球協議会・中野久事務局長も「こういう活動は長いことできない。今年1年が勝負」と位置付ける。来年にもNPBや国へ要望、提案したいと意気込む。
プロ球団招致はまさに10年越しの悲願だが、それだけではない。同県出身で昨年1月に亡くなった、野球漫画の第一人者・水島新司さんへの“恩返し”だ。
代表作「ドカベン」で山田太郎率いる明訓高校のモデルは新潟明訓高校。「あぶさん」の主人公・景浦安武も新潟出身と、水島さんの郷土愛は作品に反映され、野球振興や観光にも貢献。その流れで、09年に完成した新潟県立野球場(現・ハードオフ エコスタジアム新潟)の球場名に「ドカベン」を推す声が上がった。水島さんも故郷の球場に作品名が付くなら、と協力的だった。
ところが…命名権導入で運営費を確保したい県と意見が対立。命名権を獲得した企業名と併記する案が出されると、水島さん側は難色を示した。
結局、当時の県が提案したのが、売却先の「ハードオフ」と並べた「ドカベン ハードオフスタジアム」…。しかも、ハードオフの関連企業が「古本販売」も手がけているという皮肉も手伝い、水島さん側の怒りを買う事態となったのだ。
これを境に、水島さんは新潟市に関わる数々の役職を辞任。その後も「ドカベンカップ」と呼ばれていた学童野球新人戦の名称が変更されたり、観光循環バスにラッピングされたドカベンキャラクターが外されるなど“溝”は深まった。亡くなった今もなお禍根として残っているのが現状だ。
今回の新潟市の動きと一連の流れに、水島プロダクションは「プロジェクト自体を聞いていないので、お答えできません」とのことだった。しかし「故郷にプロ球団を」は水島さんの念願だったに違いない。
実は水島作品ではすでに16球団構想が実現。12~18年に連載の「ドカベン ドリームトーナメント編」では、新潟の球団「新潟ドルフィンズ」がセ・リーグの球団として登場している。
中野事務局長も「プロジェクトが実現したら、水島さんへの感謝の思いをどこかに残したい、という気持ちはありますね」と、水島さんへの秘めた思いを明かした。
もちろん、クリアすべき課題は多い。30億円もの加盟金と「新規参入資格」の審査を通過できる親会社の選定。何より他3球団の見通しは立つのか…。球界拡張の道は始まったばかりだが、実現へ向けての本気度は高い――。
○…他の候補地はどうか。静岡市、松山市、沖縄県、さらに地元企業が球団誘致に前向きな栃木県に質問状を送付。16球団構想に向けた具体的活動などについて聞いたが、すべて「具体的活動はありません」「何も決定しておりません」だった。ただ、静岡市と栃木県はファーム拡大に向けた準備を進めている。












