【取材の裏側 現場ノート】郷に入れば――。29日に京セラドームで開催されたソフトバンク主催試合のロッテ戦。年に一度、大阪で開催される球団恒例イベント「鷹の祭典」に3万5000人以上が詰めかけた。

 花を添える始球式には、球団の親会社であるソフトバンクグループのCMでおなじみの大人気アイドルグループの「なにわ男子」が登場。キャスティングはバッチリで、大役を担ったグループのリーダーで福岡出身の大橋和也(25)は、足を頭上まで上げる豪快なフォームで大いに沸かせた。ストライク投球とはいかなかったが、父親と練習を重ねた成果で野球ファンからどよめきが起こるナイスピッチング。祭典を華やかに盛り上げる面目躍如ぶりだった。
 
 いい流れで始まった試合だけに気になったことがある。それはプロ野球ファンの「叫び」だった。試合中から〝切ない声〟がネット上などに並んだ。ある一部ファンの「観戦マナー」について。確かに切なく映る光景があった。

 グラウンドに背を向けてカメラを構える姿…。撮影場所を求めて頻繁に席を立つ姿…。被写体は始球式を終えて試合観戦する「なにわ男子」のメンバーたちだった。熱心な野球ファンの視界はそのたびに遮られた。「なにわ男子」の熱狂的ファンの通路をふさいだり、席の前で頻繁に立つ行為に対して「迷惑」という声が相次いだ。3回終了後に帰路に就く集団に寂しさを感じたという声もあった。「なにわ男子見たから帰ってるやん」。現場、ネット上には野球ファンの複雑な心情があふれていた。

 関係者によれば「なにわ男子」の始球式が正式に発表された後、約1万枚のチケットが売れたと聞く。お金を払って球場に来ているファンに変わりはなく、当事者側の言い分もあるかもしれない。グラウンドとは反対側に一心不乱にカメラを向ける自由を制限されることはない。ひょっとすると、手頃な価格でお気に入りのアイドルを至近距離から見る絶好の機会――と捉えられたのかもしれない。

 ただ、土俵は真剣勝負の「プロ野球公式戦」だ。コンサートとは違う。その日しか観戦できない野球ファンもいる。福岡を本拠地とする球団の主催試合なら、なおのこと。ゆえに、SNSなどでプロ野球ファンが苦言を呈したくなる気持ちも理解できた。声を上げたファンの多くは、〝もう少し思いやりが欲しかった〟という思いではなかっただろうか。アイドルに向ける熱量とプロ野球に向ける熱量、双方に大差はないはずだ。立場が変われば、どう感じるだろうか。

 野球人気の低迷が危惧されて久しい。日常の中で野球とは無縁の人たちが球場に足を運ぶ機会は、そうそうないはずだ。大好きなアイドルを見に行くついでに観戦したことがきっかけで野球に興味を持つ人が増えてほしいとも願う。敬意と思いやりがあれば、気持ちのいい共存は可能なはずだ。