【侍ジャパン】東京五輪金へライバル韓国を分析 伊勢孝夫氏「菅野は通用しないと思っている」

2020年01月03日 16時31分

ライバル韓国を分析した正田氏(左)と伊勢氏

 侍たちよ、これが金メダルへの道だ――。国際大会「プレミア12」で初優勝を果たした野球日本代表・侍ジャパンだが、2020年の目標は東京五輪で表彰台の頂点に立つこと。その上で最大の障壁となりそうなのが“宿命のライバル”韓国だろう。今回本紙は稲葉篤紀監督(47)に代わり、日韓両国の球界に精通した2氏を“緊急招集”。元韓国・SKコーチで本紙評論家の伊勢孝夫氏、前韓国・起亜コーチの正田耕三氏をゲストに招き、両氏に金メダルへの展望を占ってもらった。

 ――いよいよ五輪イヤーです。その前に「プレミア12」では初優勝を飾りましたが、お二方とも侍ジャパンの戦いぶりはどうご覧になりましたか

 正田:僕は韓国のチーム(起亜)でコーチをしていましたが、しっかり日本を応援していましたよ。ただ、韓国に勝ったのは必然かな。日本は選手層の厚さが群を抜いていましたね。

 伊勢:リリーフの山本(オリックス)、甲斐野(ソフトバンク)、山崎(DeNA)が良かったな。あの3人の調子が五輪でもそこそこなら、どこの国もそう簡単には打てんだろうよ。

 ――東京五輪ではMLB選手が不参加ということを踏まえると、やはり最強の敵は韓国ではないでしょうか

 正田:リーグ公式戦には見向きもしなくても、国際大会となると急に熱を帯びるのが韓国。ましてや宿敵の日本で開催される五輪ですから注目度は高い。ファンだけでなく、選手たちも盛り上がっています。

 伊勢:確かにプレミアと五輪は別物と考えた方がいい。プレミアでは勝ったが、力は五分五分と見るべきや。

 ――韓国代表の場合、メダルを獲得すれば兵役免除という“ニンジン”が士気高揚につながっているとも言われます

 正田:実は東京五輪に限っては、兵役免除は士気を高める材料にならないかもしれません。韓国は2018年のアジア大会で優勝したことなどもあって、数人を除いてすでに多くの選手が“免除済み”なんです。僕が教えていた起亜の選手たちも、むしろ大会の賞金や金メダル獲得で得られる年金への関心が高かったですから。

 伊勢:兵役の問題はナーバスでな。最近は野球だけ優遇されすぎじゃないか、という他競技からのやっかみもある。国民の目も厳しいから、出場する選手にかかる重圧は日本の比じゃないで。

 正田:政治も野球も「世論で動く」のが韓国。結果を出せば国民から拍手喝采ですが、逆の場合は“国賊”のように叩かれる。プレミア12で不振だった主砲のパク・ビョンホ(キウム)も、帰国後はインターネット上でクソミソでした。韓国ではマスコミの報道より、ファンの“カキコミ”を気にしている選手がすごく多い。代表選考も、そうした“世論”が影響するのが特徴ですね。

 ――韓国代表を率いるキム・ギョンムン監督も大変そうですね…

 伊勢:彼は温厚で紳士的な男。北京五輪で金メダルを取ったのに、斗山では不振になった途端にクビ切られたり、昔から苦労しとる。日本の野球もよく知っているし、参謀格のチェ・イルオン投手コーチは在日韓国人。首脳陣は日本通なんや。

 正田:キム監督は理論的で日本的な野球を好む人ですね。ただ小技を絡めた機動力野球を目指しているのでしょうが、代表ではメンバー構成の問題からまだ理想の野球はできていませんね。

 ――韓国野球というと大味で“打高投低”ともいわれます

 伊勢:日本の打者は技術は高いが、思い切りとパワーでは韓国が上やろう。特に外角球にはめっぽう強い。中途半端な球は軽々スタンドまで持っていく力がある。極端にいえば、選手は内角球を打つ練習はしていないし、審判も内角はストライクを取らん。だからワシは外の出し入れで勝負するタイプは韓国相手には通用しないと思っとる。例えば、菅野(巨人)とかな。アンダースローが通じると考えるのも間違い。実は横手投げ、下手投げの投手は日本以上にゴロゴロいるんや。

 正田:投手は日本に比べれば全体的な質は劣ります。でもプレミアの決勝でリリーフ登板したイ・ヨンハ(斗山)のように好素材もいる。直球の角度があって、クイッと曲がるスライダーもいい。五輪では“日本キラー”として先発起用してくる可能性も十分あります。打者では若いイ・ジョンフ(キウム)はいい選手。遊撃手のアン・チホン(起亜)も代表入りすれば要注意。韓国打線はイケイケドンドンな気風がありますから、ビッグイニングには気を付けないといけません。

 ――では迎え撃つ日本はどんな野球で対抗するべきでしょうか

 伊勢:そりゃあ、お家芸の“チマチマ野球”で逃げ切るしかないやろう。序盤から打ち合いに持ち込まれたら苦しい。先発が僅差でブルペンにつないで、打線は終盤にスクイズでも犠飛でもいいから点を重ねる。24人となると厳しいが、周東(ソフトバンク)のような足が速いヤツは欲しいね。韓国戦に限れば、投手は剛速球でしっかり内角勝負できるタイプがいい。そうなると、やっぱり千賀(ソフトバンク)は必要やろうな。

 正田:五輪もプレミアのメンバーで勝てる可能性はありますが、一発で局面を変えられるスラッガーが少ないかなと。僕が監督なら山川(西武)や岡本(巨人)は呼びたいところです。結局、プレミアで勝負を決めたのも山田哲(ヤクルト)の一発でしたから。

 ――山田哲は当初、打撃スタイルが「国際大会向きではない」ともいわれ、侍首脳陣間でも評価が割れていました

 伊勢:確かに日本の打者は球を呼び込んで打つタイプが多いから、そこで動かされて苦労する。鈴木(広島)のように前でさばく打者は苦にならないんだがな。ただ米国や中南米相手だとそういう傾向はあるやろうが、韓国相手なら気にする必要はないんやないか。

 正田:山田哲に限らず日本代表クラスになれば、みんな対応能力が優れた選手ばかり。そうでなければトリプルスリーを何度も達成できません。首脳陣は選手の力を信じて、困っているときには適切な助言をしてあげることも肝要です。

 ――では、最後は金メダル取りに挑む稲葉監督と後輩たちにエールを

 伊勢:稲葉はとにかく真面目で熱心な男。ヤクルトの米国・ユマキャンプでもいつも最後までバットを振っていた。「おい、もう夜やぞ。寝る前の酒ぐらい飲ませてくれよ」と何度言うたか…。ただ、あの子は若い時から気配りの男でな。周囲に気を使いすぎてつぶれないかだけが心配や。日本代表の監督になるとは思わなかったが、優しい性格で選手や裏方には慕われるはず。男にしてやってもらいたいな。

 正田:僕もカープの後輩たちが何人も活躍していることはうれしいです。一方で引退後にお世話になったタイガースから一人も選ばれていないのは寂しい。野球人生を振り返ればロサンゼルス五輪で金メダルを取れたことは大きな経験でした。五輪出場のチャンスがある現役選手には「オリンピックっていいもんやぞ」と大声で伝えたいですね。