世界一の名将は、笑わせるだけでなく容赦なく選手を叱る〝鬼軍曹〟だった。ブルワーズを率いるパット・マーフィー監督(67)が、球団を史上初のワールドシリーズ制覇へと導いた。米紙「ニューヨーク・タイムズ」傘下の「ジ・アスレチック」が30日(日本時間31日)、異色の指揮官の波瀾万丈の半生と知られざる素顔に迫り、その記事が反響を呼び起こしている。

 ブルワーズは28日(日本時間29日)、敵地トロピカーナ・フィールドで行われたレイズとの第5戦に4―1で勝ち、4勝1敗で頂点に立った。ミルウォーキーを歓喜の渦へと巻き込んだ指揮官の現役時代は、マイナーの投手で通算7勝10敗。28歳でノートルダム大の監督に就任した際の年俸は、わずか7000ドル(約105万円)だった。体育の授業では学生に出身地を尋ね、その土地の有名人を即答する〝珍授業〟で人気を博したという。

 指導者としての原点は、人との距離を縮める話術と貪欲な学習欲だ。大学時代には名将ルー・ホルツ氏の指導を間近で学び、アリゾナ州立大では全米大学選手権に4度出場。しかし2009年、NCAA(全米大学体育協会)の調査でチームの管理体制を問題視され、辞任に追い込まれた。本人は今もその判断に異議を唱えており、自らを「建設中」と称して学び続けている。マイナーの下部組織から再出発し、15年にはパドレスの暫定監督に。かつての教え子クレイグ・カウンセル氏に招かれ、16年にブルワーズのベンチコーチとなり、24年から指揮を執る。

 記者会見は〝お笑い劇場〟そのもの。難問クイズに正解した記者には、どこまで本当かは不明だが「航空券を買う」とまで宣言する一方、グラウンドでは一切の妥協を許さない。9月、主力捕手ウィリアム・コントレラスが一塁へ全力疾走しなかったとして即交代。翌日の同捕手は内野ゴロで一塁にヘッドスライディングを敢行した。ワールドシリーズMVPに輝いたコントレラスは実際に、そのマーフィー監督の率直さにあらためて敬意を示している。

 6年前には心臓発作も経験。成人した子供だけでなく、11歳と7歳の息子を持つ父親でもある。親交の深かった名物実況アナ、故ボブ・ユッカー氏からの〝天国の手紙〟を想像して選手に読み聞かせる人情家の顔も持つ。日本のプロ球団での指導にも夢を抱いてきた遅咲きの名将。その武器は厳格かつ頑固な性格だけではない。厳しさを突き抜けた〝本物の愛情〟が、ついに世界一をつかんだ。