約1年ぶりの一軍舞台だ。巨人・井納翔一投手(36)が1日のソフトバンク戦(東京ドーム)に2番手で登板し、わずか5球で火消しに成功した。先発ローテを期待されて2020年オフに2年契約でFA加入したが、移籍1年目はまるで戦力になれず。チーム内の評価も暴落してしまった一方で、昨季の長いファーム生活で意外な理由から〝救世主〟としても扱われていた。

 ついに出番が巡ってきた。およそ1か月ぶりに先発したドラフト3位右腕・赤星が5回途中6失点でKO。5点ビハインドとなると、場内には「ピッチャー・井納」がアナウンスされた。

 投球練習中、登場曲である近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」が流れ、場内は大きなどよめきに包まれつつも、井納は一死二塁のピンチでグラシアルと中村晃を打ち取ってみせた。チームは3―6で3連敗。それでも、昨年5月19日の広島戦(東京ドーム)以来、378日ぶりの一軍登板を無失点で終えた意味は大きい。

 桑田投手チーフコーチは「チャンスをあげられなくて今のタイミングになってしまった。ベテラン投手に対してちょっと申し訳ないなという気持ちがありながら、今日はいいピッチングだったので安心しています」とねぎらった。

 井納は今季が2年契約の最終年。先発ローテでフル回転する活躍を期待されての入団だった。しかし、昨季開幕前に自身の不注意で頭部裂傷のケガを負い、初登板初先発は2回途中4失点KO。中継ぎに配置転換され、結局、昨季は登板5試合、防御率14・40と散々な成績に終わった。チーム内からも「ありゃもうダメだ」と辛らつな言葉も飛び交ったが、実は井納に感謝する声もあった。

「井納が二軍のローテでガッチリと回ってくれたおかげで、まだ体もでき上っていない若手が無理に投げる機会を減らしてくれた。肩やヒジを井納が体を張って守ってくれた」(球団スタッフ)

 昨季の9月以降、一軍では先発ローテを5人に絞って回したが、ファームの先発陣がコマ不足に陥ったことも大きな要因だった。二軍ローテのやりくりにも支障をきたした中、井納は14試合に先発して中継ぎも含めて24試合に登板した。

「もちろん、それが彼の本来の仕事ではないんだけど…」と、同スタッフは頭をかいていたが、井納が二軍でフル回転したおかげでさらなる故障者を生まずに済んだと言えなくもない。

 今季開幕前に「チーム内の信頼を勝ち取れるように」と意気込んでいたFA右腕。崖っぷちの立場に変わりはないが、ここからはい上がれるか――。